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2015.01.10 (Sat)

トルストイの『戦争と平和』を読む

 この長編小説を初めて読んだのは高校の時だったかな。当時は随分と重い小説だなと感じたものだが、ロシア文学は今、読んでも重い。とにかく長くて登場人物も多い。それとロシア人特有の名前は覚えにくい等、なにかと読んでいても辛い小説であったといった印象は今でもある。その後に、何度か読みなおしたが、なかなか消化しきれないでいるというのが実のところである。
 時は1805年、ナポレオンに率いられているフランス軍とロシア軍との間に戦争が起こった。青年公爵アンドレイ・ボルコンスキーは領地・禿山に隠遁している父と妹マリヤに身重の妻を預け、クトゥーゾフ将軍の副官として戦地へ出発する。アンドレイの親友で、留学から帰って来たピエールは、モスクワ屈指の資産家ベズーホフ伯爵の私生児だったが、伯爵の死後、その遺言によって全財産を相続、。一躍、社交界の花形になった。それに目を付けた後見人クラーギン公爵は、美貌であるが品行に良くない噂があった令嬢エレンを嫁がせようと画策し見事に成功する。
 この年の11月アンドレイはアウステルリッツの戦いで敗れたロシア軍にあって、ただ1人、軍旗を手にして敵陣に突入し重傷を負うが、ふと気がついて頭上の青い悠久の空を眺め、その荘厳さに心を打たれる。そして、今までの自分の野心や名誉欲、偉大な人物と崇拝していたナポレオンなど、すべてがちっぽけな取るに足らないものに思えるのである。
 一方、ピエールは、結婚後もまもなく友人ドロホフと妻エレンとの間に妙な噂がたったので、名誉を守るための決闘を申し込み、相手を倒した後、妻と別居する。それ以来、彼は善悪や生死の問題に悩むが、フリー・メイソンの指導者と知り合い新しい信仰の生活に入る。
 故郷では戦死したものばかりと思われていたアンドレイがひょっこり禿山に戻ってきたが、その晩、妻リーザは男の子を生んで、そのまま息を引き取った。アンドレイは最早、自分の人生は終わったと考え、領地で一生を送る決意をする。
 1807年6月、ロシアとフランスは講和条約を結び、平和な生活が訪れる。1809年の春、アンドレイは貴族会の用事でロストフ伯爵を訪ね、生命力溢れる若い令嬢ナターシャに強く心をひかれる。その年の暮、2人は舞踏会で再会し、間もなく愛し合うようになり婚約するが、禿山の老公爵の強い反対で1年間の猶予をおくことに決め、アンドレイは外遊する。しかし若いナターシャは淋しさに耐えきれず、ピエールの妻エレンの兄アナトーリの誘惑に負けて、駈落ちの約束までしたため婚約は破談になる。
 1812年、再びフランスとの間に戦争がはじまり、アンドレイはボロジノの決戦で重傷を負う。ロシア軍は撤退しつづけ、ついにモスクワを明け渡すことになる。ロストフ家では家財を運ぶのに調達した馬車で負傷兵を輸送することに決めるが、ナターシャはその中に頻死のアンドレイを見い出し、自分の罪を詫びて必死に看病するが、その甲斐もなくアンドレイは死ぬ。
 ピエールはモスクワにとどまり、百姓姿に扮してナポレオン暗殺の樹を狙うがフランス軍の捕虜になる。妻エレンは戦火の中でも乱行を続け、堕胎薬の服用を誤って悶死する。戦争は結局ロシアの勝利に終わり、モスクワでナターシャと巡り合ったピエールは、彼女を深く愛していることを改めて思い知り結婚する。アンドレイの妹マリヤも、ナターシャの兄ニコライと結婚し、それぞれ幸福な家庭を作り上げていく。とまあ、以上のような話であるが、筋書きを書くだけでもこのようなことを書かないと説明できないほど、色々とある大河小説である。所謂、大河ロマンである。だからこれといって主人公を特定することは出来ないが、作品の中心になっているのは、ロストフ家の令嬢ナターシャでだろう。ナターシャは、この作品にトルストイが託した生命肯定の思想を体現する存在といっていい。彼女は天真爛漫で少しの作為もない、常に自然のままに行動する。伯爵家の令嬢として深窓に育ちながら、狩猟の後、貧しい地主である伯父さんの家で、民謡に合わせてたくみに踊る。全てのロシア人の心の中にあるものを、彼女は生まれながらに会得しているのである。
 隠遁生活を送っていた後、彼女と知り合ったアンドレイ公爵が、自分の人生はまだ終わった訳ではないと感じ、彼女を思い描いただけで、人生全体が新しい光に包まれてくるほど強い生への志向を持つようになったのも、彼女のあけっぴろげな魂の力によるものである。ナターシャは生粋のロシア女性であり、ロシア文学に描かれた女性像の中でも、もっとも生き生きした魅力的な1人であろう。

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