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2008.02.24 (Sun)

小説『阪急電車』有川浩著を読む

 先日、大手書店の入り口で山積みしてあるハードカバーの書籍を見つけ、そのタイトルに惹き付けられ思わず買ってしまった。題名は『阪急電車』有川浩著・・・・・題名から阪急の社史かその手の本だと連想したのである。それこそ、入り口に積み上げられているから、おそらく話題の書なんだろうけど、阪急の関係の書籍なんて珍しいことではないし、それが何故、こんなに並べてあるのだろうかと手にとって拝見したのである。するとページを捲ってから、すぐにその理由が判った。これは阪急の社史でもなく小説だったのである。

 それも阪急の一支線である今津線を舞台にした小説である。それを知ると私は興味が沸々と湧いてきて、この新刊本を買う羽目になってしまった。著者は有川浩という高知県出身の30代の女性である。この人は初めて聞く名前なのであるが、既に『塩の街』という作品で電撃小説大賞を受賞し、『空の中』『海の底』等の話題作も書き、近著『図書館戦争』では『本の雑誌2006年上半期ベスト1』に選ばれたという。そして、同書は人気を呼び、このたびアニメ化されることが決定したという。でも、私は最近の音楽と同様、最近の文学たるものには疎いので、皆目、何のことか判らなかったのであるが・・・・・。そんなこんなで『阪急電車』という小説を読むことになってしまった。それも電車の中で起こる日常の話である。人の出会い、人の別れ、生活の中で体験する様々な出来事を、今津線という短い路線の中に限定して話は展開されるのである。

 ところで阪急電車というのは、全国的にはどの程度の知名度があるのだろうか・・・。この本はタイトルからして関西圏では売れているようだが、全国的にはどうかなあという疑問が成り立つ。おそらく東京の路線だとテレビ・ドラマで京王線なり小田急線なり東急なりが出てくるので、日本全国知れ渡ることとなるが、関西の路線というのは全国ネットで紹介されることは滅多にないだろうから、知名度という点では弱いだろう。でも、現在の日本で、私鉄の在り方を最初に示したのが阪急電鉄だというと判るであろうか・・・・・。昔、小林一三という人がいて、この人が阪急電鉄の前身である箕面有馬電気軌道という鉄道を明治40年(1907年)に敷いた。それは大阪~神戸間、大阪~京都間、大阪~奈良間という既存の都市の間ではなく、大阪の梅田と兵庫県の宝塚間だったのである。当時の宝塚というのは兵庫県武庫群、兵庫県川辺郡と呼ばれ、小浜村、長尾村、西谷村、良元村に分かれていた。つまり温泉以外、何もないただの田舎だったのである。また現・阪急宝塚線の沿線は周辺に大きな街がなく一面の田園地帯で、こんなところに電車を走らせたのである。でも小林一三には秘策があった。沿線の土地を買占め、宅地造成し住宅を建て分譲販売した。一方、終点の宝塚には温泉に浸かれる娯楽施設を建て、少女による歌劇団を組織した。それが、その後の宝塚歌劇であり、宝塚ファミリーランドであった。また逆に起点の梅田駅には日本で初となるターミナル・デパート阪急百貨店をオープンさせ、周辺や沿線に住む多くの人を呼び込んだのである。

 このようにして沿線の開発に着手し、街を発展させ、後年に神戸線、京都線と沿線を延ばしていき、さらにはプロ野球球団(阪急ブレーブス)と映画会社(東京宝塚映画・・・略して東宝)、劇場(梅田コマ劇場、新宿コマ劇場)の経営に乗り出したのである。こういった手法で阪急が私鉄経営に長じたことにより、東急の事実上創業者である五島慶太が、小林一三に経営方法を学びに来たことは有名な話である。その結果、五島慶太は東京で同じことをした。それは渋谷の街の開発と、田園調布の宅地造成である。だから小林一三の阪急電車が如何に時代を先取りした鉄道会社か判るだろう。

 それでこの『阪急電車』という小説であるが、阪急の宝塚から今津までの10駅、距離にしてたった9.3km、でも小説では西宮北口から今津までの間は話から省いてあるので、話の中に登場する駅は宝塚、宝塚南口、逆瀬川、小林(おばやし)、仁川、甲東園、門戸厄神(もんどやくじん)、西宮北口の8駅、7.7km、所要時間14分の路線で起こる様々な話ということになる。でもこの短い路線の沿線には、宝塚大劇場、ガーデンフィールズ(旧宝塚ファミリーランド)、手塚治虫記念館、宝塚ホテル、宝塚ゴルフクラブ、甲山森林公園、仁川ピクニックセンター、仁川テニス場、阪神競馬場、西宮カントリークラブ、関西学院大学、神戸女学院大学、門戸厄神、兵庫県立芸術センター、建築中の西宮ガーデンズ(西宮球場跡)、また、その他のショッピングセンター、お洒落なスイーツ店、レストラン、大学、高校も多く、色々な種類の人が集まってくるところでもある。それに今津まで足を延ばせば、甲子園球場も近いという立地条件で、関西の富裕層が住みたがる地域と言っても過言ではない。つまりそのような路線を走る電車の中のお話であるということを頭に描いて欲しいと思う。

 登場人物は何組かいて、オムニバス形式で出てくるが、それぞれが何らかの関係で繋がっていて、巧に話が構成されている。

 まずは宝塚駅での話・・・・・征志という本好きの青年がいる。彼は二週間に一度、宝塚中央図書館で本を借りるが、何時も読みたい本を先に奪われる。その本を奪うのは何時も同じ女性で、それが征志の好みのタイプの女性だった。或る日、宝塚から乗り合わせた電車で、その女性と隣り合わせになる。それが偶然なのか判らないが、そこから彼女との会話に発展していく。

 宝塚南口では白いドレスを着た結婚式帰りの美女が乗って来た。しかし、彼女は花嫁ではない。結婚式に招待された女性だったのである。でも何か訳がありそうで・・・・・、顔は怨念に溢れていた。何が彼女にあったのだろうか・・・・・。

 逆瀬川では女の子の孫を連れたお祖母さんが乗ってきた。彼女達は白いドレスの女性の異様な姿に驚くが、お祖母さんは彼女に何があったのか見抜いていた。それで彼女にいい街だから、小林で降りるように説得する。

 一方、小林で降りていった美女を見ていた若いカップルは、結婚式の招待者が白いドレスを着て結婚式に行くものではないと、喧々囂々と論戦を繰り広げていた。それは何気ない会話であったが、とうとう喧嘩にまで発展し、次の仁川駅に到着するや彼は怒って、突然、競馬に行くと捨て科白を残して電車から降りてしまった。そのカップルの有様を一部始終、見ていた孫を連れたお祖母さんは、下らない男ね。やめておけば? 苦労するわよ。と説得する。
                                

【More・・・】

 甲東園から乗り込んで来た女子高生グループは、甲高い声で喋りだした。その中の一人は社会人の恋人がいるという。でも漢字がさっぱり読めないといって莫迦にしていた。その会話を聞いていた男に仁川で降りられた先ほどの若い女性は、その女子高生が羨ましいと感じた。

 門戸厄神では2人(男と女)の大学生が、満員になりかけた車内でぶつかり合った。どうも2人は持ち合わせた教科書から、同じ大学の同学年であることが判った。2人は長崎と広島の出身であった。どちらも友達がいなくて恋愛経験もなく、高校時代までの自分を変えたくて関西の大学に来ていた。それが電車の窓から眺められる光景に目が行って、そこから会話が始まった。2人はお互いに好印象を持ったようだ。恋の芽生えである。

 やがて電車は終着駅の西宮北口に到着し、電車から大量の乗客が吐き出された。その中には白いドレスを着て結婚式に出て、一度、小林で降りた美女もいたし、彼氏が莫迦な会社員という女子高生を含んだグループもいた。また、当然のように恋の芽生えがありそうな大学生の男女もいたし、彼と喧嘩して一人きりになった彼女もいた。

 しかし、一度、小林で降りた筈の白いドレスを着た美女が、何故、喧嘩した女の子と同じ電車に乗っていたのか・・・・・といった疑問が残るが・・・・これは作者が、連作の短編として雑誌に連載していた関係から、このあたりの詳細まで目が行き届かなかったのであろう。まあ、こういった不手際というのは、小説の中ではよくあることなので、目を瞑るとしよう。でも、とにかく巧く話が出来ている。それに短い路線を走る電車での話に絞ったという着眼点にも恐れ入った。

 こうして小説の中では幾つかの話があって、登場人物が絡み合って構成されている。それで、小説はこれで終わらなくて、折り返しの後半がある。後半は半年後のことで、前半に登場した人物達のその後がどうなったかに視点が向いている。やはりオムニバス形式で、前半とは反対に西宮北口から始まって宝塚で終わる。またまた登場人物が何らかの形で因果関係を持ちつつ話が展開するのである。

 この有川浩という女性は、ライトノヴェラーということで、軽いタッチの小説を得意としているようだが、軍事に強く、自衛隊関係の小説を多数書いている。実に珍しい女性作家であるが、今回はまるでフィールドの違う日常の市民の生活に密着した話を小説の題材に選んだようだが、ほのぼのとした読書感がある。おそらくこの本を読んで、何となく阪急今津線沿線に住んでみたいと考えた人もいるんではないかと思える。

 私自身も阪急沿線に住んではいるが、京都線沿線なので趣がだいぶ異なる。でも今津線を頻繁に利用するというものではないが、競馬が好きで、仁川にある阪神競馬場にはよく通ったものだから、あの沿線もよく知っている。とにかく六甲山系の東端の麓を走っている路線ということで、西側にはハイキングコースにもなっている山や丘陵、ゴルフ場があり、東に行けば武庫川があり今津線と並行して流れている。それでいて大阪の梅田、神戸の三宮まで、どちらも20分~30分で行けるという便利な立地条件にある。だから関西の多くの財界人、文化人、芸能人、スポーツ選手がこの周辺に住み着いたのは判る気がする。この地は明治、大正時代から開発され、今でも高級住宅地で在り続けている。だから阪急電車というのは、関西の人にとっては一種のステータスがあるのだ。茶色でもなく紫色でもなく、チョコレート色でもない小豆色に近いマルーンの色の電車。けして派手ではなく落ち着いて上品な味わいのある電車である。よく大阪はケバケバでコテコテで原色を好むと言われるが、阪急電車に乗ると何処にそんな色があるのだろうかと錯覚する。それが阪急電車なのである。乗車すると木目調のシックな雰囲気の内装に包まれ、車内広告は最小限に抑えられ、緑色のシートに座ると夢心地になる。だから人気も高く、阪急電車に乗り慣れてしまうとJRや他の私鉄なんて乗りたくなくなるのだ。

 要するに比較的ハイソサエティーでいて、庶民も利用する阪急電車の今津線だから、この小説は成立したのかもしれない。これが地下鉄やJRだと、職業や地域住民の層が偏ってしまって、このような小説にはならないと思える。でもこれで有川浩さんが阪急今津線沿線に住んでいることが、当然のように判明してしまっただろう。でも私は今のところ住居を移すつもりはない。
                             
 阪急今津線門戸厄神駅から神戸線塚口駅までの進行方向を眺めた動画。珍しく西宮北口駅を停車せずに通過する。


 べつに阪急電車の宣伝をしているわけでもないけども、日本で有数の優れた私鉄であることは間違いがない。

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*Comment

♪阪急電車

「阪急電車」の文庫版も映画も懐かしく観ました。間もなく81歳を迎えるOBです。有川浩さんはペンネイムかも知れませんが、同窓会名簿にその名前では出ていません。
輕部 潤 |  2011.07.07(木) 20:10 |  URL |  【コメント編集】

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