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2008.03.20 (Thu)

『私家版・青春デンデケデケデケ』芦原すなお著を読む

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 高校時代にロックに目覚めてバンド活動をやったことがあるという人は多いだろう。私は高校時代は自分の才能の無さにあきれて、ただ音楽を聴くだけで、ロックバンドをやっている連中を羨望の目で見ていた覚えがあるが、そんな人にはおあつらえ向きの小説が、この『私家版・青春デンデケデケデケ』である。

 時は1965年の3月、主人公の「ちっくん」こと藤原竹良は中学を卒業して、これから香川県にある観音寺第一高校に入学するのである。そんなうきうきした春休みの最中、ラジオから流れ出る曲を聴いて電気が走るような衝撃を受ける。その曲はザ・ベンチャーズの『パイプライン』であった。ちっくんは、それまで家にあった古いヴァイオリンを独習する少年であったが、主にクラシックを聴いていた。それが突然のようにエレキ・サウンドに目覚めるのである。

 高校に入ったちっくんは漠然とバンドを作ってみたいと思うようになるが、なにせ田舎町のこと、ロックを聴いているものが少ないし、ロックたるものを良く知らない。それに、バンドを作るにも術がなかった。そんな或る日、彼は軽音楽部の部室を訪ねるのである。そこにいたのはやせっぽちの眼鏡をかけた少年で、名前を白井清一といった。彼はギターが巧く、その場でベンチャーズの『ドライビング・ギター』やアニマルズの『朝日のあたる家』のイントロを弾いた。ちっくんは彼を気に入り、バンド結成を示唆するのである。こうして集められたメンバーは、他に浄泉寺というお寺の息子の合田富士男、ブラスバンドで太鼓を叩いている岡下巧である。このように4人でバンドを結成し彼らはバンドと共に成長していくのである。

 物語は家庭でのこと、学校でのこと、アルバイトでのこと、恋愛のこと、将来のこと、これら起こりうる彼等の日々を、バンドの成長と共に、高校3年間に渡って書き綴られていて、高校3年の時の文化祭のコンサートがクライマックスになっている。

 この小説は1991年の上半期直木賞を受賞することとなり、翌年には大林宣彦監督で映画化もされた。でも残念ながら私はその映画を観ていない。

 ところで芦原すなお自身が数年後、私家版の『青春デンデケデケデケ』を出版するに至るが、私が読んだのはこちらの方である。私家版の方は400字詰め原稿用紙で783枚という大長編である。直木賞を受賞した方は原稿用紙400枚に纏められた小説なので、作者本人としては不本意だったのだろう。映画の方も短い『青春デンデケデケデケ』版の映画化なので、私家版はエピソードが多くなっていて、より面白くなっている。

 ところで芦原すなおという人は1949年生まれであるから、団塊の世代といっていいだろう。この年代の人はいわゆるエレキ世代で、ベンチャーズに触発され、エレキ・バンドを作った人が多い。するとその直後にビートルズの洗礼を受け、瞬く間に全国各地に似非ビートルズのようなアマチュア・バンドが出現するのだ。この物語で言うところのロッキング・ホースメン(小説内でのバントで名)もそんなグループの一つであろう。ベンチャーズが出て、日本にエレキ・ブームが起こった頃は、私は小学校の低学年であった。テレビで『勝ち抜きエレキ合戦』というような番組が当時にはあって、アマチュアのエレキ・バンドが腕を競うのである。私は喧しい音楽だなあといった認識でしかなかったが、テレビでベンチャーズの『ダイアモンド・ヘッド』『パイプライン』『キャラバン』『十番街の殺人』といった演奏を聴いて、上手いなあと幼心にも感心していたものである。それが高校生あたりになると、実際にバンドを作って演奏してみたいという衝動にかられるのであろう。天啓を受けたちっくんのロッキング・ホースメンはベンチャーズの曲を練習する。でもベンチャーズはインスルメンタルなので唄が無い。

 やがて彼らは唄いたい欲望からビートルズの曲を懸命に練習する。この小説の中で出てくるビートルズの曲・・・『すてきなダンス』『パーティーはそのままに』『プリーズ・プリーズ・ミー』『アスク・ミー・ホワイ』『ミズリー』『イット・ウォント・ビー・ロング』『オール・マイ・ラヴィング』『キャント・バイ・ミー・ラブ』『ア・ハード・デイズ・ナイト』『恋する二人』『恋におちたら』『家に帰れば』『ユー・キャント・ドゥ・ザット』『アイル・ビー・バック』『ヘルプ』・・・・そしてちっくんが最もビートルズの曲で好きだという『アイ・フィール・ファイン』。

 ビートルズの『I Feel Fine』という曲を聴いてもらえば解るように、曲の出だしが「ボム・・・・・・・・・・・・・グワ・・・・・」という不思議な効果音で始まるなどと曲に纏わる様々な解説まで加わっていて、1960年代のポップシーンにやたらと詳しく書かれてある。私は作者と比較すると年齢は下になるが、聴いていた音楽も一致する部分がかなりあり、非常に懐かしく読ませてもらった。この小説に出てくるバンド、シンガー、曲のほとんどを私も知っていて、小学生ながらとてもませていたガキだったと痛感するのである。思えば私が住んでいる京都というところは、昔から保守的のように思えて実は、時代を先取りする気風があることを感じる。私が小学生の頃は、クラスの大半の子がビートルズの曲の幾つかを知っていたし、PPMやボブ・ディラン、ジョーン・バエズのフォーク、アニマルズ、ローリング・ストーンズあたりならレコードを持っている子が何人かいた。

 そんな中で、私は自分で言うのも何だが、人より洋楽を余計に聴いていた。だからペトラ・クラーク、スプートニクス、ピーターとゴードン、コニー・フランシス、タートルズ、クリフ・リチャード、リック・ネルソン、ペリー・コモ、デイブ・クラーク・ファイブ、マインドベンダーズ、ジョニー・リバーズ、ジャンとディーン、ドリフターズ(念のために言いますが、いかりや長介)のバンドではありません)、シャングリラズ・・・・これらの『青春デンデケデケデケ』に出てくるバンド、シンガーの名前を聞いても私は全て知っていた。

 このようにロック、エレキ、といった音楽に手を染めるのは不良といわれた時代である。だから私もこのような音楽を毎日聴いていると、公に人には言えなかった苦しみがある。本当に今となっては隔世の感がある。でも、この時代に数多くの洋楽を聴いたことが、私自身の音楽的素養として残っていて、今となっては人並み以上に色んな音楽を知りえたことを有り難く感じているのである。だから、この小説を書いた芦原すなおという人も、相当な音楽的教養に満ち溢れた人であると、私は読んでいて判明したのである。まさに『青春デンデケデケデケ』は、エレキ狂いの60年代の若者の青春ドラマである。




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藍色 |  2010.04.08(木) 17:47 |  URL |  【コメント編集】

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青春デンデケデケデケ 芦原すなお

1965年の春休み、ラジオから流れるベンチャーズのギターがぼくを変えた。 高校生たちがくりひろげる抱腹絶倒、元気印の、ロックと友情と...
2010/04/08(木) 17:19:25 | 粋な提案
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