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2007.11.09 (Fri)

古典文学を読む・・・・・『赤と黒』

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 子供の頃は、ほとんど文学作品なんて読まなかった。どちらかというと漫画ばかりで、あんな字ばかり埋まっている小説なんて何処が面白いのかと思っていた。だから読書感想文なんて宿題を出されると、何時も困っていた。でも我が家には、世界文学全集なんてものが部屋の書架に並んでいた。誰が読んでいたかというと私の姉である。姉は小学生の頃から本の虫で、中学に入る頃にはロシア文学、フランス文学、イギリス文学、ドイツ文学、片っ端から読破していたようだ。そんな活字中毒のような姉の弟である私は、本を読むのが苦手で、これではいけないと思い、一念発起して夏目漱石の『吾輩は猫である』を読み出したのだが、読んでいる途中に眠たくなって、とうとう読破出来ずに投げ出してしまったものである。そんな私が、今ではすっかり活字中毒だから、本当に人間なんてどうなるか判らない。

 読書嫌いの私が本を読むようになったのは高校生の頃だったと思う。何を読んだのか覚えてないのだが、アイザック・アシモフのSF小説か松本清張の『点と線』『砂の器』だったと思う。ことに松本清張の小説は、物語の中に埋没してしまい一気呵成に読んだ覚えがある。この時、本というのは面白いものだと認識し、一度、興味を持つと邁進してしまう自分自身の性格もあって、毎日の読書が欠かせないようになってしまったという訳である。それで私は、こういった読書歴を経ているから、皆が最初に読む古典的な文学作品を、高校生になってからやっと読み出すようになってしまったのだ。

 さて、スタンダールの『赤と黒』を読んだのは20歳の頃だろうか。皆より、遅い年齢で読んだから、主人公のジュリヤン・ソレル偽善的性格というものをある程度判る年齢になっていた。だから、この小説を読んだ時、主人公が出世のために偽善を貫き通す姿勢に同調も出来るのであった。

 『赤と黒』の筋書きを簡単に言うと・・・・・スイスの国境に近い町の製材屋。その製材屋の息子ジュリヤン・ソレルは、ナポレオンを崇拝しながら、王政復古の世の中では平民に残された唯一の道である僧職につこうと考えていた。彼は町長レナール家の子供の家庭教師となり、レナール夫人を誘惑して愛し合う中となるが、町中に噂が広まったためブザンソンの神学校に入る。神学校では校長に推薦されて、パリの貴族で政界の大立者ラ・モールの秘書になる。

 パリに現れたジュリヤンは社交界にに染まり、彼にひかれた侯爵令嬢マチルドが妊娠したのを機に結婚の許可を得る。さらには侯爵に軽騎兵中尉に任命される。その時、ジュリヤンを誹謗するレナール夫人の手紙が侯爵に届けられる。一瞬にして出世の夢が破れたジュリヤンは、レナール夫人をピストルで撃ち逮捕される。

 投獄されたジュリヤンは、世俗的野心から解き放され、傷の癒えたレナール夫人と再会し、昔日の愛を取り戻してしまう。やがてジュリヤンは法廷に引き出され、「私は死刑に値します」と宣言する。さらには貧しい者が弾圧される社会の犠牲者として、支配階級である陪審員を告発したため、怒りをかって死刑を宣告されギロチンにかけられる。マチルドはジュリヤンの首を抱いて盛大な葬式を営み、レナール夫人は子供達を抱きしめながら、この世を去る。

 実在の事件を元に恋愛心理の鋭い分析力で、読む者の心を捉える卓越した小説である。これはスタンダール本人に宿る精神性というのだろうか、ひたすら自己の尊厳を重んじ、自己を肯定することを目的としている精神の貴族なのだ。スタンダールは7歳で母を失い、弁護士で偽善家の父、僧侶の家庭教師、未婚の叔母に育てられたからなのか、圧制と偽善に対する反抗心を若いときから燃やしている。学校に入ってからは偽善を許さぬ唯一つのものとして数学に熱中したという。このような自らの体験があり、やがて『赤と黒』となって現れるのであるが、小説のタイトルでも判るように、赤はナポレオン時代の軍人の栄光及び熱烈のエネルギー、黒は王政復古に勢力をふるう僧侶階級の黒衣を表すという。

 『赤と黒』は『1830年代記』という副題もついていることから、7月革命前の支配者交替の時代を生きる平民の青年の野心をとおして貴族、僧侶、ブルジョワジー等が凌ぎを削る社会での反動に、鋭くメスを入れ皮肉り批判的に描き出した見事な文学作品である。
                                
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