2009.12.31 (Thu)
ショパンのエチュードを聴く

2009年最後の記事がショパンか。ショパンというのはピアノの詩人とかいわれるほど厖大なピアノ曲を残していて、それが何れも人気がある。2つのピアノ協奏曲を始め、3曲のピアノ・ソナタと多くのピアノ曲群がある。エコセーズ、変奏曲、幻想曲、スケルツォ、プレリュード、即興曲、バラード、ポロネーズ、マズルカ、ノクターン、ワルツ、そしてエチュードがある。これらは小品が多く、何れも作品群として後世に残っているが、作曲家としては王道を行っていると言い難く、協奏曲以外に管弦楽曲をほとんど残さず、室内楽、歌曲が知れ渡っているぐらいで、ショパンの作品の多くはピアノ曲に集中しているという稀有な作曲家である。それはどうしてなのかというと、ショパンが生きている時代にピアノという楽器が大きく世の中に浸透し始めたからだろうと思われる。ピアノが技術開発され、ほぼ現在の形になったのはショパンの生きていた時代であろうし、それにより演奏技術の開拓に懸命になるピアニストが大勢いたことも関係しているだろう。それによって新しいピアノ曲を作曲せねばならなかった。つまり、この時代にピアノの達人リストも出現しているように、演奏技術の進歩と共に難易度のあるピアノ曲を幾つか作曲する必然せいもあったであろう。また、ピアノ以外の曲をほとんど作らなかったのは、彼自身の性格によるものかもしれない。彼はオーケストラのような手間のかかる曲を避けていた?
生涯、肺結核という病気に悩まされていた関係から大曲は作れなかったのか、それとも淡白(?)な性格から色々な楽器に手を染めたくなかったのか判らないが、現実に39歳で世を去っているのだから、自分の死期が絶えず念頭にあったと考えられるのだ。それに彼自身ピアノ弾きでもあり、ピアノの可能性を伸ばせる曲ばかりを作っていた方が、楽しいということもあるだろう。実際にはショパンは歌劇も好きであったという話もあるが、歌劇ともなるとオーケストラ部分も含めて全般、合唱曲、アリアといった歌が中心となり、とても彼の性格からは書けるような量ではない。それだからというのでもないが歌曲も作曲はしている。でも彼の歌曲はピアノ曲ほどの印象は残らない。結局、自身もピアノで思いを伝えることの意義を見出していたかのように思えるのだ。それがピアノの詩人と言われるほど、ピアノ曲に精魂を込めていた一因ではないかとは思うのだがだが・・・・・・。
ところで、このエチュードとは日本語で練習曲と訳されるショパンがピアノの練習用に書いた作品群である。全部で27曲あるとされ、作品番号で言うとOp10が12曲あり、Op25が25曲ある。そこへ作品番号のない25番、26番、27番の練習曲が加わっている。全部で27曲あるというものの長い曲で4分ぐらい、短い曲だと1分程度の小品群である。でもショパンを語る上で欠かせないのがエチュードなのである。この中では標題つきの曲が流石に知れ渡っているが、全般を聴き比べてみても印象に残るのが標題のついている曲ということになる。つまり第3番ホ長調Op.10-3『別れの曲』、第5番変ホ長調Op.10-5『黒鍵』、第12番ハ短調Op.10-12『革命』、第21番変ト長調Op.25-9『喋々』、第23番イ短調Op.25-11『木枯らし』なのだが、『別れの曲』なんかは、今から20年近く前になるだろうかテレビのドラマで使われてから特に有名になったような気がする。ことに現40代の女性は、このドラマを観ていたのではないだろうか。『101回目のプロポーズ』というドラマで武田鉄矢が浅野温子にプロポーズするのだが、とにかく臭いドラマで観ていてアホらしくなってきたという覚えがある。
当時、職場の若い女性に感動するから観て観てと言われ、話のネタにと観たものの武田鉄矢が「僕は死にましぇん」と言ってみたり、オーケストラのチェリストである浅野温子がチェロを弾いている時、ちっとも左手が曲に一致したポジションを押さえておらず、またヴィヴラートかけてないなど、製作過程からしてお粗末極まりないドラマで呆れ返ってしまったものであるが、このドラマの中で『別れの曲』が一貫して毎度のように使われていたのである(あとノクターンの5番も使われていた)。それ以来、この曲は女性達の間では有名になったように思うが・・・・。
何だか過去のドラマに対して苦言を呈するような形になってしまったが、ショパンの曲というのは映画でもドラマでも昔から使われることが多かった。実在のピアニストエディ・デューティンの伝記映画『愛情物語』ではノクターン2番が全編で使われたし、アメリカン・ニュー・シネマの『ファイブ・イージー・ピーセス』ではプレリュードの4番、イングマル・ベルイマンの映画『秋のソナタ』ではプレリュードの2番、大林寅彦の映画『さびしんぼう』ではワルツ9番『別れ』、黒澤明の『夢』ではプレリュード15番『雨垂れ』といったように効果的に使われていた。またテレビ・ドラマでもTBS『少女に何が起こったのか』でエチュード12番『革命』が、フジ『ロング・バケーション』でエチュード5番『黒鍵』と『幻想即興曲』が使われていたことはいうまでもない。それに、昔から胃腸薬『太田胃酸』のCMではショパンのプレリュード7番が使われていたりして、ショパンのことをあまり知らなくても曲だけは知っているという現象が起きていたりする。それだけショパンの曲というのは人の感性に訴える作品が多くメロディも無理なく身体に入ってくる。いわば大袈裟ではなく等身大でいて身近なところにある曲。つまり誰もが心を惹かれるメロディが多く大衆性があるということになる。
さあ、いよいよ2009年も終わろうとしている。こんな慌しく世知辛いご時世にショパンの曲でも聴いてみては如何かと・・・・・・・・。
全盲のピアニスト辻井伸行が弾くエチュード第3番ホ長調Op-3『別れの曲』
小山実稚恵が弾くエチュード第12番ハ短調Op10-12『革命』
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