2012.10.27 (Sat)
モーツァルトのセレナードK.361を聴く
いきなりモーツァルトのセレナードK.361なんてケッヘル番号でタイトルを書いてしまうととっつきにくそうだが、これはモーツァルトの作品を時代系列的に配列した番号で、曲を指定する時に便利が良いので一般的によく使われるのであって、正確にはセレナード第10番 変ロ長調 KV.361『グラン・パルティータ』というのが正しい。でもクラシック音楽の曲名をいう場合、どうしてもややこしいので、モーツァツトの作品はケッヘル番号で言う方が判りやすいのである。もっともこの曲は『グラン・パルティータ』という名称がついているので、そちらで呼ぶ方がいいかもしれない。ところでケッヘルと言うのはなにかというと、膨大な数のモーツァツトの作品を表すために19世紀中ごろにルートヴィヒ・フォン・ケッヘルという人がモーツァルトの全作品を作曲順に並べた番号と言えばいいだろう。つまりモーツァルトの作品を表す場合の世界共通認識番号である。
これでケッヘル番号の話はもういいだろう。それでは次に、このセレナーデとうのは何かと言うとドイツ語でSerenadeと書く。本来はスペイン語に由来するセレナーデとは夕べの音楽のことであり、所謂、クラシック音楽によくあるが、ジャンルの一つである。たとえば交響曲、協奏曲、歌曲、合唱曲、室内楽曲、器楽曲と色々なジャンルがあるが、その中の一つと言ってもいい。ドイツやフランスではセレナーデ、イタリアではセレナータ、イギリスではセレネイドと言われ、日本では小夜曲と訳されている。主に夜、宮廷等で演奏されたからであろう。一般的に恋人、女性に捧げられた曲が多く、従って曲調が穏やかで優しいというのが特徴である。代表的なのはモーツァルトの『アイネクライネ・ナハトムジーク』である。さらにもっと詳しく言うと、モーツァルトの時代によく演奏された音楽ジャンルで、ソナタと言われる形式と違って、楽章の数が多くメヌエットを二つ以上持ち、緩急の対比を重んじている。しかし、交響曲や協奏曲等に比較すると自由な形式なので娯楽性が高く、当時の上流社会の人々の注文によって作曲された作品が多く、セレナーデだけに及ばず、デヴィルティメント、カッサシオン、ノットゥルノなどの名称も持っていた。ことにベートーヴェン以降はあまり盛んでなく、セレナーデはモーツァルト時代の方が流行っていた音楽だったのである。
それではこの『グラン・パルティータ』であるが、13管楽器のためのセレナーデともいわれ、編成は通常の八重奏(オーボエ2、クラリネット2、ホルン2、ファゴット2)にホルン2、バセットホルン2、コントラバスを加えての13管楽器という異例の作品となっている。なるほど『ガラン・パルティータ』(大組曲)と言われるほどだから、当時のセレナーデでは大編成である。全7楽章で、第1楽章ラルゴ、第2楽章メヌエット、第3楽章アダージョ、第4楽章メヌエット、第5楽章ロマンツェ、第6楽章主題と変奏、第7楽章ロンド。
作曲年代は明確ではないが、凡そ1783年~1784年辺りとされている。1781年ミュンヘンに滞在していたモーツァルトがミュンヘン宮廷管弦楽団のメンバーのために計画された曲であるが、当初は現在演奏されている形のものから2本のホルンを除いた11楽器で、楽章数も4楽章だったとされ、結局はミュンヘンで曲が完成せず、ウィーンに持ちこされて完成。この当時、珍しい楽器だったクラリネットが加えられていたのである。この曲は豊かな色彩美とテュッティと独奏が頻繁に交代し、独奏は主としてクラリネットが受け持つという当時としては斬新さであった。従ってどうしてもクラリネット奏者に銘酒を置くことが不可欠となる。その他にも2本ずつのクラリネットとバセットホルンの四重奏、2本ずつのオーボエ、バセットホルン、ファゴットの六重奏等、実にユニークな組み合わせの演奏が興味を惹くのである。
そういえば、この曲で思い出されるのは、映画『アマデウス』である。サリエリが探し求めていたモーツァルトと初めて遭遇した時のこと、ウーンの宮廷で演奏会が開かれようとしていた。大勢の人で埋まる宮廷。サリエリはモーツァルトを探していた。そして、人のない一室に入ったサリエリ。そこには今日差しだされる料理と共にお菓子が置いてあった。サリエリはお菓子のつまみ食いをしていたら、突如として若い男女が飛び込んできて、慌ててサリエリは隠れた。すると若い男女はけたたましい声を発しながら追いかけっこをしていた。男は野碑で下品であった。男はどうやら女に結婚を申し込んでいるようだ。その時、別室から曲が流れだした。すると若い男は突然、真顔に成り「僕の曲だ。勝手に始めた」と言って部屋を飛び出していった。一部始終を観ていたサリエリは、演奏されている大広間に入って仰天する。今、まさに演奏されている曲の指揮をやっていたのが、先ほど女と戯れていた若い男と同一人物だったのである。サリエリの回想によると・・・・・甲高い声をあげ、女と転げまわっていた。あの下劣な男がモーツァルトだった・・・・ということになる。
サリエリはこの『グラン・パルティータ』についても回想している。・・・・ごく普通の譜面だった。出だしは驚くほど単純だ。バスーンやバセットホルンがぎこちなく響く。錆ついたような音。だが突然、その上にオーボエが自信に満ちた音色、そしてクラリネットが引き継ぐと甘くとろけるような調べとなる。猿に書ける音楽ではない。初めて耳にする音楽。満たされぬ切ない想いに神の声を聞くようだった。・・・・・そしてサリエリは嫉妬した。「何故、神は、かくも下劣な若造を選んだのだ」以上、映画『アマデウス』から抜粋。このサリエリとモーツァルトの出会いの時に流れていた音楽。それが『グラン・パルティータ』だったのである。
セレナーデ第10番K.361第案3楽章(音声のみ)
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