2013.07.29 (Mon)
スティーグ・ラーソン 『ミレニアム1』を読む
入院している間に読んだ小説『ミレニアム1』のことでも書くとするか。この小説はミステリー物で珍しいスウェーデン発の小説。当初、皆目聞いたこともないスティーグ・ラーソンという作家だし、海外版ミステリーなんてこの歳になって今更読む気も起らない。しかし、長い退屈な入院生活を送るのも有意義に過ごしたいしと思ったところ、姉が持ってきたのがこの『ミレニアム1』と言う小説。でも海外物のミステリーなんて苦手。ちょっと読む気が起こらないなと姉に言うと・・・絶対に面白いから読めと言って置いて行った。
『ミレニアム1』は文庫本で上下2冊あって全部で850ページぐらいある。ちょっと読むのに骨が折れそうだ。でもどうせ暇な時間を潰すのにはいいかと考え、しぶしぶ読みだした。兎に角、登場人物が多すぎる。これは海外ミステリーを読むときに何時も感じることであるが、読みだした当初は誰が誰だか判らない。それに海外の小説はファーストネームで呼ぶことが多く、ファミリーネームであまり人のことを呼ばないようだ。さらにミドルネームで呼んだり、愛称で呼んだりするから人の名前をフルネームで認証してないと時々判らなくなるのだ。それで読み始めはページの冒頭にある登場人物の説明のところを絶えず捲りながら読み進めると言った状況である。それで今回はスウェーデンのい小説。英米系なら人物の名前も覚えやすいが、スウェーデンとなると話は違ってくる。スミスだとかテーラーだとかライアンだとか、ロバートだとかジョンだとかマイケルだとか、メアリーだとかエリザベスだとかキャロラインだとかといった聞き慣れている名前ではなくて、北欧の聞き慣れない名前を覚えなくてはならない。まあ、スウェーデンと言うと昔の女優でグレタ・ガルボとかイングリッド・バーグマンという女優がいたし、テニスにビヨン・ボルグと言うのもいた。それで○○○○ソンという苗字が多いことも知っているので、そういった雰囲気の名前が多いのだろうと考えていた。ところがこのミステリー、ミカエル・ブルムクヴィストが主人公で、そこにもう一人リスベット・サランデルという人物が加わる。つまりW主人公と言ってもいいかな。名前がややこしくてすぐには覚えられない。殊に話の大部分がヴァンゲル家の話になるので、一族の名前を暗記しておかないと話が本当に判らなくなる。それで登場人物と一緒に、小説の最初にヴァンゲル家の家系図というものも紹介されている。つまりヴァンゲル家における一大企業を経営する一族30人ほどが小説の中に出てくるので結構、こういったミステリーを読み慣れてない者にはとても疲れる小説である。それは今までの体験から判っていたので、海外もののミステリーを小生は最近はほとんど敬遠してきたのだが、姉が読め読めというから仕方なく読み進めたまでである。
月刊誌『ミレニアム』の発行責任者であるミカエル・ブルムクヴィゥトは大物実業家ハンス=エリック=ヴェンネルストレムの違法行為を暴く記事を発表した。だが逆に名誉棄損で有罪になり彼は発行責任者として率いていた『ミレニアム』から退いた。そんな折、ヴェンネルストムのライバル関係にある大企業グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルから依頼を受けるのである。それは36年前にヴァンゲル一族の住む島から忽然と失踪したヘンリックの兄の孫にあたる16歳の少女ハリエットの行方を突き止めてほしいというものだった。それでこの謎を解いてくれればヴェンネルストレムの秘密を全て教えてやるというものだった。ブルムクヴィストはやむなく乗り気ではないが、その依頼を引き受けることにした。
一方でもう一人の主人公リスペット・サランデルがいる。彼女は小柄で24歳。背中に大きなドラゴンのタトゥーが入った女性調査員。非社交的で社会とのつながりを持たず、体中にあるタトゥーにピアス、どぎつい服装で周囲をはねつける。カワサキのオートバイに跨り外見は15歳ぐらいにしか見えない。それでいて調査をさせれば1分の隙もない見事な報告結果を持ってくる。どんな依頼でも秘密を100%の精度で暴く力を持っている。だがリスペット・サランデルは他人に言えない秘密を抱え、重い過去を背負っていた。小説ではブルムクヴィストとサランデルの話が交互に進みやがて2人が交差する。こうして2人はお互いのパートナーとして調査を進めることとなり、事態は急展開をみせるのである。
ところで、この『ミレニアム』は3部作である。この『ミレニアム1』(ドラゴン・タトゥーの女)は3部作の第1部に過ぎず、このあと2部、3部と続くのであるが、もういいかなとは思う。でも確かに読んでいて面白く引きこまれる小説ではある。本国スウェーデンでは『ミレニアム』3部作が刊行から2011年6月までに360万部を売り上げたという大ベストセラーとなった。これは凄いことである。スウェーデンの人口は日本の13分の1。約900万人と言うことを考えたら驚異的な数字である。『ミレニアム』3部作はスウェーデン推理作家アカデミー最優秀賞、ガラスの鍵賞を受賞。映画化もされ2009年春に第1部の映画が公開されスウェーデン映画としては最高の観客動員を記録。残りの2部、3部も映画化さらにハリウッドでもリメイク版の制作が進行中らしい。さらに英語圏及び、フランス、ドイツ。スペイン等30ヶ国で翻訳され、全世界で6000万部の売り上げを記録したミステリーである。第1部の映画の方は日本でも既に上映されたが観客動員の方はどうだったのか。あまり派手な話題は聞かないが。
著者ステーグ・ラーソンは1954年生まれとなっているから小生と同世代と言ってもいいだろう。スウェーデン通信に20年以上勤務する傍ら、極右思想、人種差別に反対する運動を繰り広げ、1999年からはこいったテーマを扱う雑誌の編集長となった。こういった経験が小説の中に生きているのかも知れず、小説のテーマともいえる女性に対する偏見、軽蔑、暴力を描写するのに凄まじいものがある。結局、この小説3部作は大ベストセラーとなるものの著者のスティーグ・ラーソンは2004年11月、第3部を書きあげ、第4部の執筆中に心筋梗塞で亡くなるのである。第1部の発売の前だったらしく、まだ50歳だった。本人はこれほどの話題書になることは判っていたのだろうか。翻訳された国々でそれぞれがベストセラーとなった『ミレニアム』である。確かに面白いのであって、読みだすと先が知りたくなる。ただ一言言わせてもらうならば、余りにも猟奇的であるし、ヴァンゲル一族が如何に病んでいるかを考えた場合、こんな憎しみ合った一族って現実にいるのか何と思い、読書後の感想はけしていいものではなかった。だから姉のように2部も3部も続けて読もうとは思わなかった。
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