2013.08.18 (Sun)
ザ・ローリング・ストーンズのアルバム『メイン・ストリートのならず者』を聴く

ローリング・ストーンズのこのアルバムが世に出たのは1972年の5月である。しかし、このアルバムの中からシングルカットされた曲『ダイスをころがせ(Tumbling Dice)』が既に巷に流れていた。ストーズらしいといえばストーンズらしいが、あまり印象に残らなかったというのが当時の印象である。そして、ストーンズの2枚組アルバム『メイン・ストリートのならず者』が発売されたのである。それで当時、小生はどうしたかというと中学、高校と同じクラスになったことのあるT君にアルバムを借りて聴いたのである。T君はビートルズではなくローリング・ストーンズのファンだったので、彼なら買っただろうと勝手に思い込み貸してくれと頼み込んだのだが、アルバムを買ってはいたが「今、聴きこんでいるので待ってくれという」。
彼の話によるとそれまでのアルバム『サタニック・マジェスティーズ』『ベガーズ・バンケット』『レット・イット・ブリード』『スティッキー・フィンガーズ』に比べるととっつきにくく格闘しているという。どういう意味なのかよく判らなかったが、2ヶ月後に貸してもらって聴きこんだら、その意味が何となく判ってきた。2枚組だから曲数が多い。全部で18曲収録されていて、その中に目玉になるようなポップ調の楽曲は一つもないということだった。曲調がブルースぽいものばかりで、そこにカントリーやゴスペルやソウルフルな内容が包括された曲が多く、本来、ブルースを基本としていた音楽づくりをしていたローリング・ストーンズが、よりブルースに徹した曲を集めたという感じがした。なるほど、これではとっつきにくいなあと素直な感想を言って、このアルバムをT君に返却したという想い出がある。つまり黒っぽい音楽に定評のストーンズが徹底して黒っぽくなったといいうことである。とにかく一度聴いただけでは曲が頭の中に一つも残らない曲ばかりだったのだ。シングルカットされた『ダイスをころがせ』にしてもさほど良い曲とも思わないし、何でこんなアルバムをストーンズは送り出したのだろうかと思ったものだ。しかし、後でよく考えたらこれが本来ストーンズがやりたい音楽だったのである。でもヒットチャートにのっかるにはもっと大衆に媚をうる曲もやらないといけないので、よりポップな曲も作っていた。それが『メインストリートのならず者』に関しては、そういった曲作りを明らかにやらず飽くまでも自分たちが本来やりたい音楽だけを収録したのである。
当時、ストーンズはイギリスに住んでいなかった。それはイギリスの高い税金のせいであると主張し、ストーンズのメンバーはフランス南部に居を構えていた。でも良いスタジオがなかなか確保できず、仕方なしにキース・リチャーズの邸宅の地下室で録音されたのである。しかし当時ヘロイン中毒の最中にあったキース・リチャーズに他のメンバーは振り回され録音もなかなか進まなかったという。事実ドラムスのチャーリー・ワッツはが家が遠いということもあり段々と収録に姿を現わせなくなっている。それで代わりにプロデューサーのJ・ミラーがドラムを叩いたり、かつてビートルズのバックでキーボードを弾いていたビリー・プレストンも参加したりしているなど、謂わば色々な仲間が集まり適当にいい加減に曲を作っていたのである。それでいて肩の力が抜け、ルーズでいてラフな曲作りが彼等の真骨頂とするならば、これ以上のストーンズ・サウンドはないのである。
結局、1971年7月から始まったアルバムの収録は簡単に終わらず、1971年の12月から場所をアメリカのロサンジェルスに移し、オーバーダブ・セッションを行うのである。この時には、バック・コーラスを始め、スティール・ギター奏者アル・パーキンス、アップライト・ベース奏者ビル・プラマーをを加え今度は緻密に曲の最終仕上げを行い1972年5月にリリースされるに至ったということである。
やはりアルバム発売当初の評判は良くなかった。それが何時しか評価されるようになり、今ではローリング・ストーンズの最高傑作のアルバムと言われるようになったのである。本当に人の評価というのは時代によって変わるものであり、人の好みも時代によって変わって行く。ただ今聴いても目玉がないなあという印象はある。ただジャズのコンボ演奏にも言えるが、いい加減さが時には名演を生むが、ストーンズの曲作りもそれと似通ったところがある。そこはビートルズとは違うというところだ。まあ、これがローリング・ストーンズというバンドの特色と言えば特色なのだが。ところでこのアルバムに『ハッピー』という曲があるが、これは珍しくキース・リチャーズがヴォーカルを務めている。聴きものではあるが、正直なところあまり上手いとは思えない。
『ダイスをころがせ(Tumbling Dice)』の演奏
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