2013.12.08 (Sun)
マイルス・デイヴィスのアルバム『クールの誕生』を聴く
マイルス・デイヴィス名義の本格的アルバムと言うならこの『クールの誕生』が最初かもしれない。いや、もっと前からあったのだが(1945年4月24日に最初のレコーディングをしている)、マイルス・デイヴィスがチャーリー・パーカーのバンドを飛び出して色々と試みた中で生まれたのが当アルバムである。チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーらはビ・バップと言うアドリブ中心のジャズのスタイルを確立した。このビ・バップはそれまでの古典的スタイルであったビッグ・バンド・ジャズを一気に過去に追いやってしまうほどで、その先進性から現代のジャズ、所謂モダン・ジャズと総称されるようになる。だが、このビ・バップも限界があった。つまりコード進行という音楽の基本構造をもとに、その場で新たなメロディ・ラインを構築していくという斬新なスタイルがビ・バップであるが、このスタイルは音楽上の知識は当然として楽器演奏のテクニックも一流のものが要求され、何よりも天才的な閃きを持っているミュージシャンしか出来なかった。それまでのビッグバンド・スタイルのジャズよりも大きく前進していたが、一方ではそういった問題もあった。
マイルス・デイヴィスは20歳そこそこでチャーリー・パーカーというビ・バップの巨人と出会い、その傍で研鑽を重ねている若い時があった。それでビ・バップの限界を悟ったのかも知れない。ビ・バップは一発勝負の要素が高く、一握りの天才達しか望み得る演奏が出来なかった。それはジャズの今後とも関係していて大衆性とは相反していた。つまりジャズというジャンルの音楽の今後にもかかわっている問題であった。一瞬のアドリブの閃きに全てを掛けてしまう天才達が繰り広げるアナーキーなー前衛音楽が即ちビ・バップである。チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピー及びバド・パウエルといった才能のあるミュージシャンを持ってしても、その日の体調、気分によって出来不出来がある。すると行きつく先は破滅しかない。そこでチャーリー・パーカーのもとから去ったマイルス・デイヴィスは新しいジャズを模索していたのである。
そこで登場するのが当アルバムである。録音は1949年1月、4月、1950年3月と3回に亘っている。メンバーも多く9重奏団である。チャーリー・パーカーのコンボから脱退し何故、アンサンブル中心の9重奏団を率いたのか判らない。ビ・バップの立役者の引き立て役を演じていたマイルスはビ・バップのアナーキズムに違和感も感じていた模様で、もっときっちり練られた枠組みの中で優美なサウンドを作れないか、編曲とアドリブを組み合わせられないかと絶えず考えていたようでもある。こうして名アレンジャーのギル・エヴァンスと知り合い己の試みをスタートさせた。そして数年後に当アルバム『クールの誕生』が誕生した。トランペット、アルト・サックス、バリトン・サックスの背後でフレンチ・ホルン、チューバと言ったクラシックでお馴染みの楽器が妖しく絡み合う。それまでの一発勝負のビ・バップに比べると構成が複雑で音色の変化に富んでいる。バードの即興演奏やそれ以前のスウィング・ジャズに顕著な個人の個性で音楽を聴かせる方法は王道であったかもしれないが、マイルスはそれ以外の要素をも求めていたのである。ジャズと言うのは時代と共に変遷していった音楽である。当然、ジャズはこれだといった決まりがあったのでもない。ならばクラシック音楽の要素も加味してもいい訳であって、絶えず進化し続けたマイルスの最初の変革期が訪れていたのである。
ジャズが持っている特徴である演奏の生々しさ、躍動感、演奏者の癖をそのまま結びつける自由な楽器奏法。これらのジャズの特徴を活かしヨーロッパ音楽のスタイルを合体させるといった方法をとったのが当アルバムである。それまでジャズメンの個人技に寄りかかっていた音楽に基本的な設計図を導入し頭を使ってジャズを演奏する。これがマイルスの発想であった。そして、その後のマイルス・デイヴィスの変遷は全てこういったスタイルが基本となって行く。しかしである。このアルバムは聴いていてもあまり楽しくないのだ。すべての曲が3分半以内という短さ。当時のSMフォーマットの制限のため仕方ない部分もあり、マイルスが本当にやりたかった事の半分もアルバムからは知り得ないが、その後のマイルスの躍進の第一歩を知る大事なアルバムである事は窺える。
曲はMove, Jeru, Moon Dreams, Venus De Milo, Budo, Deception, Godchild, Boplicity, Rocker, Israel, Rougeの11曲収録されている(Darn That Dreamの入っているアルバムもあるし、それ以外の曲を追加した盤もある)。このセッションに参加したミュージシャンは曲によって異なるがマイルス・デイヴィス以外だとジョン・バーバー(チューバ)、リー・コニッツ(アルト・サックス)、ジェリー・マリガン(バリトン・サックス)、カイ・ウィンディング(トロンボーン)、J.J.ジョンソン(トロンボーン)、ジュニア・コリンズ(フレンチ・ホルン)、サンディ・シーゲルスタン(フレンチ・ホルン)、ガンサー・シュラー(フレンチ・ホルン)、アル・ヘイグ(ピアノ)、ジョー・シュルマン(ベース)、ネルソン・ボイド(ベース)、アル・マッキボン(ピアノ)、マックス・ローチ(ドラムス)、ケニー・クラーク(ドラムス)、アレンジャーにギル・エヴァンス、ジョン・カリシが加わっている。何ともいえない大所帯のバンドではないか。とにかく今聴くとマイルスらしさはない。アルバムタイトルの『クールの誕生』も後年の1957年にLP盤が出た時(収録曲も追加された)につけられたものであって、クールの誕生と言いながら小生には全くクールに聴こえないのが欠点ではある。でも当時では革新的でありクールに聴こえたのかもしれないのだろう。
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