2010.03.04 (Thu)
ショパンのピアノ協奏曲第1番を聴く

今年はフレデリック・ショパンの生誕200年ということらしい。文献では1810年生まれだからそうなのだが・・・・・死んだ人の生誕○○年記念だといってもあまり意味が無いような気がするが・・・・・・。
フレデリック・ショパンは1810年3月1日にポーランドで生れたと誰でも知っていることを書いてみた。しかし名前がフランス人的なのにポーランド人? と思われる向きもあるだろう。フレデリック・ショパンの父はフランス人だから、こんな名前なのだが、母は貴族の末裔であるポーランド人である。幼い頃からピアノを習い始め7歳ですでに作曲しているという。この辺りは世界的な音楽家なら当然か・・・・。16歳でワルシャワ音楽院に入学。20歳でウィーンに出る。この頃にこのピアノ協奏曲第1番を作曲というから何と若書きの協奏曲なのである。でも実際には、この協奏曲の前にショパンはピアノ協奏曲を作曲しているが、こちらが先に出版されたから第1番と呼んでいるだけなのだが、1番の方が曲の規模も出来上がりもいいからショパンのピアノ協奏曲というと、ほとんどの人はこの曲しか知らないだろう。
全3楽章で演奏時間が40分ほどになるショパンにしては珍しい大曲である。それ故に特徴もあるが欠点も多い。よく言われることだが、ピアノ独奏部に比べるとオーケストラ演奏部が印象度がなく、管弦楽全体の作曲が下手だとされる。確かに聴いているとピアノばかりの印象が強く残り、管弦楽の音色が立体的に聴こえないなど、ショパン自身も苦手だったのか、それともピアノの独奏曲を作曲するほうが楽しかったのか判らないが、この20歳で書いたピアノ協奏曲以降、滅多に管弦楽曲を書かなかったようだ。でも現在はショパンのピアノ協奏曲として人気があり、よく演奏会でも取り上げられから認知度は高く好きな曲だという人は多い。
そもそもドイツの作曲家でピアニストだったフリードリッヒ・カルクブレンナーに献呈するために作曲したともいわれるが、第1楽章だけで689小節もある。この楽章を演奏するだけでも約20分かかるから、小品が圧倒的に多いショパンとしては異例の曲である。弱冠20歳でこの大曲を書き上げる才能がありながら、後にはピアノ協奏曲を書くこともなく、ほとんどをピアノ独奏曲の作曲に費やしたフレデリック・ショパンである。このことは何を意味するか判らないが、おそらく彼自身、病弱であり肺の疾患(結核だといわれるが)に悩まされていたこともあり、管弦楽曲などの労力を要する曲は書けなかったのかもしれない。
また若くして故郷ポーランドの地を離れ、ウィーン、パリとヨーロッパの中心地へと住みつくものの一生ポーランドへの望郷の思いが断ち切れなかったと思え、このピアノ協奏曲第1番においてはポーランドへの告別の意が籠められているという。生涯病弱でいて繊細な神経の持ち主だったのか、女性に対する情念も深かったとみえて、彼は女性遍歴も色々と伝わっているが、28歳から9年間に及ぶ女流作家ジョルジュ・サンドとの交際はあまりにも有名である。結局、1849年、39歳という若さで亡くなってしまうが、この短い一生で多くの人の心を虜にする曲を残し、今日、ピアノの詩人と言われるほど彼は人気がある。もしショパンが管弦楽曲ばかりを手がけていたとしたら、今ほどの人気を持ちえていたか判らない部分もあり、ショパンはピアノ独奏曲ばかりで今の地位を築いているのだとしたら、このピアノ協奏曲第1番を作曲した時点で、彼のその後の人生は決まっていたのかもしれないという気がするのである。
ところで上記の写真にあるCDは1965年のショパン国際ピアノ・コンクール時に録音されたもので、ピアノ奏者は若き日のマルタ・アルゲリッチである。彼女はこの時24歳、当然のようにこの時、コンクールで優勝した。それで、その時に演奏したピアノ協奏曲第1番を弾いているのだが、この演奏が実に面白い。どこが面白いかというと、コンクールの時の演奏なので、冒頭のオーケストラ部門の4分余りにもなる序奏がカットされ、僅か1分ほどでピアノの独奏に入る。おそらくコンクールの決勝に残った何人かの演奏を続けて行なわないといけないので、いらないオーケストラの序奏を削ったのだと思えるのである。ピアノ・コンクールだから審査委員はピアノ奏者だけを審査する。だから余計な長い長い序奏は聴く必要もない。聴く必要のあるピアノ独奏部分だけをより強調する形で演奏されたのだと思う。実際にスコアを見ながら聴いていると、このCDの演奏では36小節をオーケストラが序奏を演奏しただけで、いきなり139小節からのピアノ独奏に入っている。これこそコンクールでしか聴けないショパンのピアノ協奏曲といえそうである。
ピアノ協奏曲第1番第楽章前半の演奏(1996年の映像)・・・ 何と元夫婦の共演である
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
指揮 シャルル・デュトワ
NHK交響楽団
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