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2010.07.17 (Sat)

ハイドンの『皇帝』を聴く

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 ワールドカップが終わったが、試合を何試合か観ていて思ったことがある。試合前、対戦国両国の国歌を必ず演奏するが、よく聴き慣れている国家があれば、まったく聴いたことのない国歌もある。私がよく聴いて知っているのがフランスの『ラ・マルセイエーズ』で、以下、アメリカ、ドイツ、イングランド、イタリア、ブラジル、アルゼンチン、韓国という順になるだろうか。最も我が国の『君が代』を忘れてはいけないが、曲調はともかく日本人でありながら、個人的にはあまり好きにはなれない。それは・・・千代に八千代に・・・という歌詞がどのように考えても主権在民の精神と異なるからである。かといって、今更、国歌を変えられないだろうが・・・・・・・。

さて、取り敢えず『君が代』はおいといて外国の国歌を比較するとどんなものだろうか・・・・・。やはり国歌となると重厚なほうがいいかなと思ってしまう。そういった見地からするとアメリカ国歌は有名だが曲調が軽い。フランスも有名だが重厚ではない。イタリアやブラジルなんかは調子のいい曲で、国民性が現れていると思う。すると何処の国歌が重厚なのかというと、私が知っている限りではイングランド国歌『ゴッド・セイヴ・ザ・クィーン』とドイツかなというところである。最も個人的な好みで言っているので、人によっては意見が分かれるところであろう

 ところでドイツ国歌を知っている人はともかくとして、クラシック音楽の詳しい人は、ドイツ国歌を聴いて「あれ!」と思うのではないだろうか。メロディそのものがハイドンの弦楽四重奏曲『皇帝』の第2楽章と同じだから、国歌を知らなくて聴いていると驚かれると思う。

 そもそもハイドンの弦楽四重奏曲『皇帝』は、ハイドンがオーストリアに対する愛国心から作曲したもので、4楽章からなる曲で1797年に曲が完成している(まだ、この頃はオーストリアという国は誕生していないが、都合上オーストリアということで・・・)。ハイドンはかつてイギリスを訪れた時に、イギリスの国民が何かの機会に英国国歌を歌うのを聴いて、羨ましく思い感銘を受けたという。当時のオーストリアはフランスのナポレオン軍に対するアレルギーがあり、ハイドンがオーストリア国民の士気を鼓舞するために感動的な国歌が欲しいと考えたのであろう。こうしてハイドンは『皇帝讃歌』を作曲したのである。そして、1797年2月12日、オーストリア皇帝フランツⅡ世の誕生日に、ウィーンのブルク劇場で初演されたという。結局、民衆に支持されオーストリアの国歌に制定されたのである。その後、ハイドン自身もこの旋律が気に入って、変奏曲として弦楽四重奏曲の第2楽章に組み込まれ、弦楽四重奏曲 ハ長調 作品76の3『皇帝』として現在は弦楽四重奏団によって度々、演奏される人気曲となっている。

 ところがである。現在のオーストリアの国歌は、このハイドンの曲ではなくモーツァルトの曲である(?)。ハイドンの『皇帝』はドイツの国歌として残ったのである。ヨーロッパの歴史を考えると、国境線が戦争ごとに変化するのでオーストリアの歴史も複雑である。この曲はオーストリア=ハンガリー帝国の国歌でもあったし、いわばドイツ語民族の国歌といってもいいかもしれない。その後、ドイツ国歌として残り、ヒトラーの時代、『世界に冠たるドイツ』なんていうタイトルで歌われていた。その後、第2次世界大戦集結後、歌詞が変えられ、西ドイツ国歌として歌われ続けたということである。さらにベルリンの壁が崩壊して東西ドイツが統一。現在もドイツ国歌として歌われているのだが、こういった歴史を考えると曲の重みがいっそう感じられる。でもドイツ国歌を聴くときと違い、弦楽四重奏曲として演奏された『皇帝』は同じメロディでもずいぶんと優しい曲に様変わりするから面白い。


ハイドン 弦楽四重奏曲第77番 ハ長調 作品76-3『皇帝』第2楽章の演奏


 ドイツ国歌斉唱

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