2012.02.15 (Wed)
エマーソン・レイク&パーマーのアルバム『タルカス』を聴く

1970年代前半に活躍したロック・グループの一つにエマーソン・レイク&パーマーがいた。いたというものの昨年夏、一夜限りの再結成コンサートがロンドンであったらしいが・・・・・。
このエマーソン・レイク&パーマーというのはキング・クリムゾンにいたグレッグ・レイクとナイスにいたキース・エマーソンの2人が互いのバンドを離脱して、新たにアトミック・ルースターにいたカール・パーマーをドラマーに加えて1970年6月に結成されたロック・グループである。つまり3人のファミリーネームをくっつけただけのグループ名という単純なものである。が、音楽性で言うならば他のロックグループとは大きく違っている。それは何かというとリードギター奏者がいないということ。これが決定的なところであろう。ロックのメロディラインはリードギターが奏でるものというイメージが当時は誰にもこびり付いていたから、EL&Pを初めて聴いたときはちょっと驚いた。それでどういった編成かというとキーボードのキース・エマーソン、ベースのグレッグ・レイク、ドラムスのカール・パーマーという3人編成である。最小編成であるが、同じ頃活躍した3人グループ、グランド・ファンク・レイルロードとは音楽性では180度違っていた。
さて、EL&Pが結成される以前といっても1年もならないのだが、1969年秋、キング・クリムゾンのアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』がビートルズの『アビー・ロード』を追い抜いてアルバム・チャートの1位になったと話題になっていた。その時、キング・クリムゾンでベースとヴォーカルを担当していたのがグレッグ・レイクだった。私は既に『クリムゾン・キングの宮殿』を聴いて気に入っていたので、新しいグループEL&Pも注目していたのである。そして、最初のアルバムが1970年秋に発売され、翌年の1971年の5月、EL&Pの2枚目のアルバムとしてリリースされたのが『タルカス』である。
ところでタルカスって何だろう? 発売当時に思ったことであるが、急いで辞書で調べたものだ。でも何の意味もないという。キース・エマーソンが突然閃いた単語だというから、辞書にも載っているはずがなかった。アルバム・ジャケットからして変てこな動物が描かれている。この動物がどうやらタルカスらしい。当然、架空の生き物で、アルマジロのようであるがキャタピラーがついている。どうもこのタルカスという架空の動物が火山の中から現れて地上の物を片っ端から破壊しつくして最後には海へ帰っていくというストーリーを音楽で表現しているのである。全20数分の組曲で、噴火、ストーンズ・オブ・イヤーズ、アイコノクラスト、ミサ聖祭、マンティコア、戦場、アクアタルカスからなる。
全編、シンセサイザーが幅をきかしていて、いわばプログレッシブ・ロックの王道をいく音楽づくりだった。だが当時、私のロック仲間はこういったジャンルのロックが嫌いで、ロックはギターの激しい響きがないと駄目だという者が多く、みんなハードロックを中心に聴いていた。それで私はピンク・フロイドもそうだがEL&Pを聴いているというと不思議がられたものである。でもビート中心になるハードロックよりもより至高な音楽を追求しているものだと思ったが、なかなか彼等には受け入れてもらえなかったものである。
ところで、このEL&Pが1972年の7月末に来日した。既に夏休みに入っている時期なので聴きに行けると思い早目にチケットを買った。だが、突然、友人に誘われて夏休みに入る直前にアルバイトでためたお金で北海道に行くことにした。勿論、鈍行列車を乗り継いだ貧乏な旅であるが、EL&Pのチケットを買ったことを忘れていた。これだとどうしても予定が重複してしまう。それで仲間の誰かに行く者がいないか打診した。しかし、誰も行くという返事がない。それほど私の周囲はプログレッシブ・ロックを嫌っていたのだ。やむを得ず、私の姉にチケットを渡すと意外にも行くといった。もっとも姉はEL&Pは『展覧会の絵』を聴いて知っていたから馴染みはあったらしい。
だが、この甲子園球場で行われたEL&Pのコンサートは散々だったとか・・・。姉の話によると聴衆が暴走してコンサートが途中で中止になったらしい。私は行ってないので詳細は知らないが、スタンドで聴いていた1人が球場のフェンスを乗り越えて内野の仮設ステージに走りだしたため、それにつられたのか連鎖反応で多くの聴衆が続いた、これで主催者側は電源を切ってしまったのである。コンサートで酔うのはいいが度を越して暴徒化してしまっては話にならない。当時はまだ海外のロック・バンドへの警備体制が確立されていなかったので無理もないが、EL&Pのメンバーは「日本人は気が狂っている」と言い残して去っていった。
結局、EL&Pは1980年に解散するまで活動したが、全盛期以外は私は知らないので、彼らのその後を語ろうにも語れないというもどかしさがあるものの、ギタリストのいないロック・バントして確かに彼等は輝いていた。今となっては懐かしい限りだ。
EL&P『タルカス』の演奏(音声のみ)
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