2012.02.21 (Tue)
ポール・マッカートニーの新アルバム『キス・オン・ザ・ボトム』を聴く
以前からポール・マッカートニーがスタンダード・ナンバーばかりをカバーしてアルバムをリリースするとは聞いていた。それがこのほど発売になったので早速買い求めて聴いてみた。そもそもビートルズ時代からカバーはお得意だったポール・マッカートニーである。しかし、これまではほとんどがロックン・ロール・ナンバーがメインのカバーであった。それがこれまでの趣を一新してジャズ・スタンダード・ナンバーのカバーである。これは実に珍しい。収録曲は『手紙でも書こう』『ホーム』『イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン』『もう望めない』『グローリー・オブ・ラヴ』『ウィ・スリー』『アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ』『マイ・ヴァレンタイン』『オールウェイズ』『マイ・ヴェリー・グッド・フレンド・ザ・ミルクマン』『バイバイ・ブラック・バード』『ゲット・ユアセルフ・アナザー・フール』『インチ・ワーム』『オンリ-・アワ・ハーツ』の14曲である。
この曲名群を見て何だと思った方が大半だろう。スタンダードと言ってもほとんど無名な曲ばかりである。3曲目の『イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン』以外は知られてない曲ばかり。『ホーム』『オンリー・アワ・ハーツ』の2曲だけは今回ポールがこのアルバムのために書きおろした曲なので当然誰も知る筈がないが、それ以外だと無名曲の羅列である。スタンダードと言っておきながら無名曲が多い。でもこれがこのアルバムのコンセプトらしい。ポール自身が言うには「僕が重視したのは、有名な曲は選ばないということだった。古典的なスタンダードと呼ばれている曲のなかにも、みんなになじみのないものがたくさんある。(そんな曲をカヴァーという形でよみがえらせて)うれしいサプライズをプレゼントしたいという気持ちもあった」ということらしい。
ポールは子供の頃、アマチュアのジャズ・ミュージシャンだった父ジムの奏でるピアノを楽しみにしていたという。要するに父がよくポールに聴かせていただろう古い曲がメインになっているようだ。そういった頃の思い出がこのアルバムに反映されたといってもいい。ポールの父の世代が歌っていたような古い曲を何時かやりたかったのだそうな。正月に家族や親族が集まってみんなカクテルやベビーチャムを飲みながらポールの父はピアノを弾いて、それをみんなで歌うといった家庭がマッカートニー家だったのである。そういえばポール・マッカートニーはビートルズ時代にもロックン・ロール・ナンバーではない『ザ・テースト・オブ・ハニー』『ティル・ゼア・オブ・ユー』等をアルバムに収録しているから、古い時代を偲ばせるスタンダードも得意としていただろうし、『ベサメムーチョ』なんていうラテン・ナンバーをも歌う姿を映画の中で披露しているぐらいだ。何もロックばかりを聴いていたのでもなく、ジャンルを超えてありとあらゆる曲を聴きこなしていたと捕えるのが正解だろう。だから彼の作曲する曲自体、色んな要素が含まれているのでもある。『イエスタデイ』はどこかバッハを連想するし、その他の曲でもカントリー風あり、ジャズ風あり、ラテン風あり、東洋風あり、それがポール・マッカートニー・サウンドと言えるかもしれない。実に幅が広いと言わざるを得ない。
ところで今回、このアルバム収録に関わったミュージシャン達であるが、まず女性ジャズ・ピアニストでヴォーカリストのダイアナ・クラール、スティ-ヴィー・ワンダー、エリック・クラプトンがいる。そして、このアルバムをプロデュースした人がトミー・リピューマで、今までジャズ界で活躍していた人であるが、かつて日本のイエロー・マジック・オーケストラを欧米に紹介する功績などでも知られているが、今回のアルバムを制作するにあたり選曲にも加わったらしい。それと、このアルバムではポール・マッカートニーが楽器を弾かず、ヴォーカルに徹しているなどロックでは知ることのできないポール・マッカートニーの一面を垣間見られる一枚となっている。
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