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2008.04.29 (Tue)

三島由紀夫『複雑な彼』を読む

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 三島由紀夫の小説というと『仮面の告白』『金閣寺』『禁色』『潮騒』『永すぎた春』『午後の曳航』『美徳のよろめき』『絹と明察』『豊穣の海』・・・・・・ざっと名前を挙げるだけでも以上のような作品が思い出される。でも『複雑な彼』という小説は、どのような扱いになるのだろうか。およそ三島由紀夫らしくない小説といえば語弊があるかもしれないが、彼の作品の中では珍しく通俗的な大衆小説だといえるかもしれない。少なくとも三島由紀夫を代表する小説ではないことは確かだ。ところが、この小説に登場してくる人物は、おおよそ堅気な社会では通用しないスケールの大きさがある。そういった意味で、『複雑な彼』を読んだ当時、三島由紀夫はとんでもない人物を小説の中に登場させたものだと驚いたことがある。

 小説はサンフランシスコ行きの飛行機の中の描写からはじまる。森田冴子は父親の会社がアメリカと技術提携したため、アメリカへ行く度に通訳として父の供をしていた。そんな飛行機の中で冴子は、制服に包まれた背中のかっこいいステュワードの仕事ぶりに惚れ惚れする。そのステュワードは日本人離れした長身で体格も立派で堂々としていて、狭い機内で優雅に振舞っていた。気になった冴子はサンフランシスコに着くなり、彼の地に住んでいる大学時代の親友で元ステュワーデスのルリ子に、それとなく気になるステュワードのことを尋ねてみたら、ルリ子はすぐに判ったらしく、「井戸掘り君だわ」と言った。そのステュワードは、航空会社に勤める前は、金に困って井戸掘りをやったことがあるというが、それ以外は謎だらけであった。でも冴子は、ステュワード姿の洗練されたハイカラさと井戸掘り人足とが、頭の中で一つのものにならず、どういう男なのか知りたくなっていくのであった。

 日本に帰った冴子は、遠縁の伯父さんと呼んでいる紳士が井戸掘り君の若い頃の恩人だということを知り、会わせてくれと頼み込む。こうして冴子は、井戸掘り君と同席することになった。でも井戸掘り君こと宮城譲二は、冴子が考えている以上に複雑な彼であった・・・・・・・・・・・・・・・。イギリスに留学していたというし、またロンドンでバーテンダーとして働いていたともいう。女性遍歴も半端ではなく、ロンドン、パリ、ブリュッセル、ハンブルク、コペンハーゲン、エジプトと宮城譲二の片側には常に女の影が付き纏う。また喧嘩の腕もたいしたもので、ボクサーとしてリングに上がったこともある。日本に帰ってからは、ホテルのボオイ、競馬のノミ屋、キャバレーの用心棒、沖仲士、そして保釈中の身の上ながら航空会社へ潜り込み、ステュワードとして働いている。まさに日本人のスケールからはみ出している宮城譲二であり、国際人と自負する冴子も流石に驚愕せずにはいられなかった・・・・・・。とうとう冴子も彼に惚れこんでしまい、結婚を願望するが、彼には結婚に踏み切れない理由があって、冴子の前から姿を消す・・・・・・・・・・・・。

 この小説を読んだ時、実は三島由紀夫がある男をモデルにして書いたのだということを知った。その男とは、作家の安部譲二だったのである。

 安部譲二は、裕福な家庭の子に生まれ、麻布中学では橋元龍太郎と同級生だったという。だが、同時に安藤組へ出入りするチンピラやくざであった。こういったことから職を転々としてゲイバーの用心棒をしていた頃に、三島由紀夫と知り合ったという。この時、安部譲二が外国人との揉め事を見事に抑えるところを見て、三島由紀夫がボクシングを教えてくれと懇願したという。その後、執行猶予中にもかかわらず、安部譲二は日本航空にステュワードとして入社し、後にパーサーまで昇進している。しかし、過去がばれて再び、やくざの道へ転落してしまう。この間、日航に4年働くが、このステュワード時代のことを三島由紀夫が克明に書いたのが『複雑な彼』なのである。

 安部譲二は、結局は日航をクビになり、所属した安藤組も解散したため、途方にくれるが、小金井一家にヘッドハンティングされ、またゴロツキの道へ進んでしまう。その一方で、プロモーター、食品加工会社経営、レストラン・ライブハウス経営、キック・ボクシングのテレビ解説、競馬の予想屋等をやっていた。でもム所暮らしも8年に及ぶ。

 シャバにて出てからは堅気な生活に戻ろうと作家を志す。そして、『塀の仲の懲りない面々』がベストセラーになり今日に至る。

 以上が安部譲二の凡その人生であるが、彼が少年時代に犯した不始末のせいで、ロンドンのウィンブルドンへ留学されられ、その後、貨物船に乗って日本まで帰って来るのであるが、彼のような裏社会で暮らしていた人間というのは、大蔵省官僚から作家に転じたエリート三島由紀夫のような人間から見れば、計り知れない魅力があるのだろうか、女性週刊誌に安部譲二をモデルにした小説を連載していたという。これは聞く所によると、私兵の『楯の会』を創る費用を捻出するために、この『複雑な彼』を女性週刊誌に書いたというのだ。女性が読む週刊誌だから、突拍子もない男が出てこないと女性が読まないとでも思ったのだろうか、三島由紀夫は安部譲二の半生を小説にして、その費用で楯の会を創ったのだとしたら安部譲二も随分とお騒がせな男であろう。

 この数年後の1970年11月、三島由紀夫は自衛隊市谷駐屯地に侵入して割腹自殺を計り45歳の生涯を終える。でも本当に『複雑な彼』は、三島由紀夫自身かもしれない。
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*Comment

こんにちわ^^
あちこち見てるうちに おじゃましちゃいました^^;

よければ私のHPものぞいてくださいね (^^♪
たま |  2008.05.01(木) 10:05 |  URL |  【コメント編集】

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