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2007.11.18 (Sun)

東京国際女子マラソンを観て

 今日、東京国際女子マラソンが行われていたのでテレビ観戦した。最近はあまりスポーツ観戦することもなくなっていたが、比較的マラソンはよく観る。だらだらと長くて何処が面白いのかという人もいるが、長い間、体力の限界で走り続ける中にも個々の駆け引きがあり、戦術がなさそうでいて戦術のあるのがマラソンだと思う。そんなレース中、スパートのタイミングとかペース配分の読みだとか、そういったところを重点に見ていると目が離せなくなるのである。

 私がマラソンというのを知ったのは、古くて1960年のローマ・オリンピックの時である。まだ幼かったが、テレビで何か大勢の選手が走っている映像を観て不思議な気がしたものだ。その中で2人の選手が抜け出して、最後には裸足で走っている選手が先頭に立ち、人で埋まる凱旋門の中に設けてあるゴールへ飛び込んだ。その選手が、後にアベベ・ビキラだったということを知るのであるが、ローマ・オリンピックの頃は、当然のように生中継ではない。収録して、数日後に編集したのをテレビで放映していたのである。私は幼かったが、その時の光景は良く覚えている。

 それから間もなく、マラソンというのが日本国内でも行われていることを知り、テレビ中継を親父と一緒に観ていた時期がある。その頃は、スタートからの完全中継ではなく、後半の35km辺りからの中継であったように思う。その頃の選手で覚えているのが寺沢徹である。この人は長い間、日本の第一人者で、アベベ・ビキラがローマで出した2時間15分16秒2の記録を破る2時間15分15秒8という世界最高記録を1963年に別府で出したこともある。そして、翌年に東京オリンピックを控えて、日本は君原健二、寺沢徹、円谷幸吉という優れたランナーを輩出したのであった。

 1964年の東京オリンピックのマラソンは今でも忘れない。学校の授業は短縮授業で、早めに帰されてマラソンを観るように言われたものだ。この時のマラソンが、おそらく世界でも最初の完全なテレビ生中継だったのではないだろうか・・・・。

 スタートからオーストラリアのロン・クラーク(当時の10000m世界記録保持者)とエールのホーガンの2人が驚異的ペースで飛ばし、最初の5㎞を15分11秒で通過した。アベベは競技場を出るときは後方だったが、徐々に進出し、7km地点で追いついた。暫くは3人の併走が続いたが、途中からアベベの独走になってしまい2時間12分11秒2という世界最高記録で優勝したのである。この時、2位で競技場に入った円谷が、競技場内でイギリスのヒートリーに抜かれ、口惜しい思いをした覚えがある。あれから40年以上経過するが、日本のマラソン人気は今でも衰えてない。でも最近の日本のマラソン人気は女子に頼っているところがある。それは男子が弱いからでもあるが、女子はシドニー、アテネとオリンピックのマラソンで2連覇しているから、この人気は持続しているのだろう。

 さて、きょうの東京国際女子マラソンに、アテネ・オリンピックの金メダリスト野口みずきが出場するということで、私は注目していたのである。この人は雨の日になると京都の三条会商店街の中を走っているし、私の職場の仲間は、アテネ・オリンピックの1週間後に、京都の西京極で、買い物帰りの彼女と遭遇したというから、身近な存在でもある。最も、福士加代子(10000m、5000mの日本代表)も西京極で走っているのをよく見かけるというから、福士にも注目しているのである。

 スタートが切られたが、気温が16℃とマラソンを走るにはやや高目である。それも好天で陽射しがある。それに前半は向かい風だという。さて、何よりも東京コースというのは前半が下り坂が続き、後半に上り坂が続くという前半にハイペースになるコース。後半にどれだけタイムがロスするかが問題である。つまりここのコースは好タイムが出ないことは知れわたっている。マラソンというのはコースによって条件が違うので記録がずいぶんと異なることがあり、世界のマラソンで2時間20分を切る記録が出ているのは全て、日本以外のコースである。それは日本のコースが折り返しのある往復コースであるからして、条件が往路と復路で相反するから記録が伸びないのである。それに比べると欧米のコースはワンウェーコースが多く、気温が低めで湿度があって、追い風が吹き続けるなどの気象条件が揃えば、信じられないような大記録が出たりするのである。

 そんな中で、スタートから渋井陽子、野口みずき、大南博美、尾崎朱美の日本人にコスゲイ、ジェノベーゼ、バルシュナイテといった外国人が先行集団を形成する。スタートから5㎞は下り坂が続き、16分39秒で通過。このタイムだと2時間20分台中頃のタイムであるが、後半にペースが落ちるだろうと予想して観ていた。

【More・・・】

 10kmの通過は33分27秒、この付近から尾崎が遅れ、15kmの通過は50分27秒、15kmを過ぎて大南とジェノベーゼも遅れる。さらにレースが進むにつれ、選手は絞られていき20kmでは、とうとう渋井とコスゲイ、野口の3人になってしまった。20kmの通過は1時間07分36秒である。気温は20℃に上昇したが、相変わらず2時間22分台のペースは保っている。折り返してここから3人のサバイバルレースになりそうな予感がした。

 25km通過が1時間24分23秒。ペースは落ちない。山口衛里の持つ2時間22分12秒の大会記録更新の夢も出てきた。渋井、野口という2時間20分を切ったことのある2人が競っているのだからベースは速くなるのは当然だが、少し速すぎないかとも思えるようなラップタイムを刻んでいる。女子のマラソンで世界最高はポーラ・ラドクリフの2時間15分25秒である。このタイムはローマ・オリンピックのアベベが出したタイムと10秒ほどしか変わらない。それほど今の女子マラソンは高速化しているのだ。でも、ほとんどが平坦の片道コースでの記録で、それも男女混合マラソンでの記録である。日本のように往復コースで、それも東京のように起伏があり、女子だけのマラソンでペースメーカーがつかないとなると記録は自ら出していくしかないし、簡単に出るものでもない。でも野口は、2003年の大阪国際女子マラソンでも粘る阪本直子とデッドヒートを繰り広げ、2時間21分18秒の国内最高タイムで走ったことがある。こういった競り合いには強いようだ。

 29km付近で渋井の動きが悪くなった。徐々に2人から離れて行く。するとあとは、野口とケニヤの長身選手コスゲイとの一騎打ちである。実績では野口が抜きん出ているが、マラソンは何が起こるか判らない。あのラドクリフでもアテネ・オリンピックでは途中棄権している。また高橋尚子も、この東京コースで終盤に信じられないほどの失速を味わっている。30㎞通過は1時間41分02秒。何とベースが上がっているのだ。コスゲイは懸命に野口についている。それでも32kmで野口との差がひらきかけた、でも懸命につこうとする。35km通過が1時間57分28秒。ペースは依然として落ちない。いよいよ36kmからのだらだらとした坂が続く。いよいよ上り坂、野口のペースが上がったように思える。コスゲイはとうとう離れていった。ここからは野口の一人旅である。40kmを2時間14分24秒で通過した。いよいよ大会記録更新が確実になった。いや、恐れ入りました。この終盤にやってきてのだらだら坂で、とうとう5kmを16分56秒でカバーした。たいへんな能力である。僅かに身長が150cmの小さな選手が、大きなストライドでペースを落とさずにスパートして、とうとう2時間21分37秒でゴールインした。

 2年2ヶ月ぶりのマラソンもなんのその、強い野口みずきが帰ってきた。これで来年の北京オリンピックは楽しみになってきたと言いたいが、それはそれでまた事情が違う。

 おそらく北京は酷暑であろう。酷暑の中で行われるマラソンだから、まずポーラ・ラドクリフはあまり怖くはない。この選手はもっとも暑さに弱いと思われる。でも大ベテランのキャサリン・ヌデレバは暑さにも強いし勝負強い。老いてますます盛んというと失礼だが、手強い相手に変わりはない。そして、あとは中国勢・・・。この中国勢が1番のライバルになるのではないかと思う。周春秀は2時間19分51秒で走っているが、それよりも今は無名であるが、急成長した選手が最も怖いと思う。あれだけ人口の多い中国のこと、国威発揚の場として北京オリンピックを開催するのだ。当然、大量の金メダルを獲得することが、国策として当然のように計画に入っている。国家プロとして育成した選手が野口の相手になる。だから、これは並大抵のことでは勝てないかもしれない。でも勝てなくてもいいではないか、あの小さな体で中国という巨大なバックを背負っている選手と戦うのだ。どれほど野口が通用するのか・・・私は、その頑張る姿にエールを送りたいだけだ。

                                
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