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2010.05.18 (Tue)

モーリス・ルブラン・・・・・『813、続813』を読む

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 題名を聞いているだけだとどんな小説なのか判らないだろう。実はモーリス・ルブランの書いた人気シリーズ『アルセーヌ・ルパン』の中の長編小説である。

 最近、日本では困ったことに、ルパンというとモンキー・パンチの漫画『ルパン三世』の方が有名になってしまった。それで若い人の中には本家のアルセーヌ・ルパンのことを何も存じない人が多くて、拙者としてはいささか呆れかえるしかないのだが・・・・。これも時代の流れとして受け止めるしかないか。でも本家を凌駕するというと語弊があるが、これほどまでに『ルパン三世』が流行ってしまうと本家のアルセーヌ・ルパンまでがルパンのお爺ちゃん扱いになってしまうから面白い。でも、モンキー・パンチのコミック『ルパン三世』が、モーリス・ルブランの生み出した怪盗アルセーヌ・ルパンに着想を得て描き出したコミックだということも、映画『カリオストロの城』も、モーリス・ルブランの『カリオストロ伯爵夫人』の名前を拝借していることも、今時の人は何も知らないだろうなあと思いながら、皮肉の一つでも言いたくなったので、一度、コミックの『ルパン三世』やアニメ『ルパン三世』しか知らない人は、是非、一度でもいいから本家モーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパン・シリーズを読むことをお勧めする。

 簡単な筋書きをいうと、『奇岩城』の事件から4年が経ち、その間、音沙汰のなかったアルセーヌ・ルパンがダイヤモンド王ケッセルバックの前に突然出現した。ルパンはケッセルバックが知る秘密と、その秘密を解く鍵を盗みに現れたという訳だった。だが、ケッセルバックは暗殺され、現場には残されたレッテル813が・・・・・。やがて犯人としてアルセーヌ・ルパンの名前が急遽として浮上する。ルパンは正体不明の黒衣の男LMの策略でラ・サンテ刑務所の放り込まれてしまった。ルパンは既に重要な書類の隠し場所も突き止めていたもののなす術がない。そこでルパン沈着果敢に警察を翻弄して脱獄し、ベルデンンツの廃墟に向う。とはいうもののLMからの怖るべき刃は先回りしていた。LMとはいったい何者なのか、やがてルパンが追いつめると、その正体は・・・・・・・。

 ところでアルセーヌ・ルパン・シリーズを書いたモーリス・ルブランという人だが、日本では今日、ほとんど名前さえも知らない人が多い。ルパンの名前だけが一人歩きしているのは、名探偵シャーロック・ホームズを生み出したアーサー・コナン・ドイルと同様であるが、コナン・ドイルは『名探偵コナン』などに名前が使われていたりして知名度はある。でもモーリス・ルブランという人はアルセーヌ・ルパンの生みの親であることも知られていない。

 モーリス・ルブランは1864年、フランスのノルマンディーで生れた。彼は勤勉家だがロースクールを落第してから小説を書き出した。主に純文学である。フローベールやモーパッサンに影響を受けたとされるが、さっぱり小説は売れず困り果てていた頃に出版社で編集をやっている友人に頼まれて仕方なく書いた探偵小説『ルパン逮捕される』が大ヒットしたのである。こうして書き出したのが怪盗アルセーヌ・ルパン・シリーズである。

 要するにルブランもシャーロック・ホームズを生んだコナン・ドイルと同様、作者よりも登場人物の方が有名になってしまい困惑していたという。やはりコナン・ドイルがシャーロック・ホームズの存在に困惑したというが、モーリス・ルブランもアルセーヌ・ルパンの大成功を当初、あまり歓迎していなかった。そこで当作品『813』の中でルパンを自殺させている。ルブランは純文学や心理小説で成功を考えていたのに、現実的には目指していた文学と違う形で成功してしまった。この成功は本懐にあらずといったところであり、何れ純文学で成功したいという夢はあっただろう。でも、やはり純文学よりも大衆受けするのは、こういった推理ものであるという事実がある。当然、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズのシリーズに影響を受け、ルパン・シリーズを書くにいたったことはいうまでもないが、探偵に対抗すべき怪盗といった形をとったのが、お洒落で小粋な怪盗紳士ルパンだった。これがフランス人に案外、受けたようで、このシリーズは大好評となり、売り上げも驚異的であった。

 この大成功で、書き出した頃は苦々しく思っていたルパン・シリーズだが、ルブランは次第と情熱を注ぎ、このシリーズに本腰を入れることとなったのである。その結果、モーリス・ルブランはレジオンドヌール勲章を貰うこととなる。本当に仕方なく書いた小説が突如として人気シリーズとなり、それが幸いして彼は名声と地位を得た。しかし、亡くなる直前でもルパンを愛していなかったという逸話がある。つまりモーリス・ルブランはルパンよりも飽く迄フランス文学の王道を進みたかったのかもしれない。
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