2010.11.30 (Tue)
ドヴォルザーク・・・・・『弦楽セレナーデ ホ長調』を聴く

日本人の大好きな交響曲『新世界より』で有名なアントニン・ドヴォルザークはメロディメーカーとして知られているところである。確かにドヴォルザークにはメロディの美しい曲が多い。『ユーモレスク』『新世界交響曲』『アメリカ』『スラブ舞曲』『チョロ協奏曲』『交響曲8番』・・・・これらの曲に混じってもドヴォルザークの弦楽セレナーデ ホ長調はメロディが美しい。
そもそもセレナーデとは18世紀後半にヨーロッパで流行したパーティ用の音楽である。貴族や富豪たちが庭園や宮殿の中でパーティを催すときに演奏された音楽で、モーツァルトに多くのセレナーデがあることは知れ渡っているが、それ以降はあまりセレナーデが作曲されなくなった。でもロマン派の時代になって、新しい形式のセレナーデが色々と作曲されるようになった。そんな中で最も有名なのがチャイコフスキーの弦楽セレナーデ ハ長調だろう。でもこのドヴォルザークの弦楽セレナーデ ホ長調も人気のある曲である。
この曲は1875年、ドヴォルザーク34歳の時の作になる。この年、ドヴォルザークは作曲家としてようやく認められるようになり、ウィーンから奨学金を受け作曲に専念できたのか、交響曲第5番を始め、その他の室内楽曲に混ざって、弦楽セレナーデ ホ長調をも作曲している。それもよほど気分が良かったのか、体調もよかったのか僅か11日間で書き上げたという。
全5楽章で、第1楽章の冒頭から柔らかなロマン的叙情を誘う主題が第2ヴァイオリンとチェロの応答によって静かに奏でられる。この冒頭を聴くだけで癒されてしまい、徐々に曲の中に引き込まれてしまう。何処か薫風が香る爽やかな新緑の季節を連想させるメロディである。第2楽章は優雅なワルツで始まり、途中からマズルカ風に変り、再びワルツに戻る。さらにトリオが続き、最後にワルツが再現して、アレグロにより第2楽章が終結する。第3楽章は2/4拍子のスケルツォ。陽気な主題がカノン風に展開し、静かな副主題と絡み、中間部のトリオが情緒的である。第4楽章はチェコのドヴォルザークの高名な研究家シュウレックが「愛の力と美と高貴をうたった夜想曲」を讃えているように、静かな情景が目に浮かぶような甘美なメロディが流麗に奏でられるが、このメロディは第2楽章ノトリオの主題と密接な結びつきを持っていて、カノン風に曲自体が発展していく。第5楽章のファイナル、アレグロ・ヴィヴァーチェは、これまでの楽章とは一変し、ロンド・ソナタ風の楽章である。主題が三つあり、それぞれが展開し、展開部で第4楽章の主題が静かに現れる。さらに再現部の後でこの曲のテーマでもある、第1楽章の冒頭の旋律がモデラートで回想される。そしてコーダでは一転して、プレスとと指示通り、急速に曲が速まり華々しく楽曲が終結する。
チャイコフスキーの『弦楽セレナーデ ハ長調』ほどの派手さははいが、曲全体を暖かいベールで覆われているような仄かな温もりの或るセレナーデである。どこか民族的な臭いがするのは彼がボヘミヤ出身だからだろうか。まだドヴォルザークの曲自体が、洗練されていない頃の若い頃に書かれた曲である。その後にメロディメーカーとして彼の名は世に出るようになるが、この曲では、既にその一端を見ることが出来る。つまり若い頃に見せる一厘の輝きのような曲とも言えるのだろうか。彼は1890年代に入って次から次へと美しい旋律の曲を世に出すようになるが、この弦楽セレナーデ ホ長調はそれよりも15年以上、前に作曲されたものであることを考えれば、この頃の玉石混同も修業時代の中の一曲に過ぎないのかもしれない。
ドヴォルザーク 『弦楽セレナーデ ホ長調』第1楽章の演奏
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