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2015.04.25 (Sat)

サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読む

 この小説は僅か3日間の話であるが当時から多くの人に支持されたのか大ベストセラーとなり発表されてから60年以上で6000万部売れたという。
 16歳の主人公ホールデン・コルフィールドはクリスマス近くのある日、成績不振で三度目の高校を除籍させられることとなり自宅のニューヨークに戻ろうとするが、両親に合わせる顔がなくインチキで汚い世界に絶望しながらも、なお人恋しい気持ちら、他社との触れ合いを求めて、三日二晩を彷徨うこととなる。
 名門私立の学校教育にホールディングが嗅ぎとり盛んに反発する現代社会の虚偽、虚飾、無神経、弱肉強食、卑俗などは彼を不適応者としてはじき出した元凶でもある。放浪中、彼が孤独のあまり近づいてゆく人間たちも、結局は金が目当ての売春婦やポン引き、有名人にのぼせるオフィスガール、本質を見抜けない女友達、信頼しきれない教師といった人物ばかりで孤独感、厭世観をつのらせる。それでも修道尼、子供、凍りついた池のアヒルなど無力なものへの愛情は忘れてはいない。無垢な世界に対する愛情が夢想させたものは人間不信の原因としての言葉の放棄であった。かくして家出を決行し、遠い地で誰とも口をきかずに暮らそうと決意するのだが、幼い妹フィービーの愛情に救いを見い出し思いとどまる。
 この小説の描写は強烈で発表当時は発禁処分を受けたりして何かと話題になったと言われていて、主人公がニューヨークを放浪して帰宅したのち幾日か経過して君に語りかけるのだが、それが口語体でより攻撃的であった。殊に酒、煙草、セックス、売春の表現等が盛んに出てくるので当時の道徳感からいって受け入れられなかったのは当然としても、一方で欺瞞に満ちた大人へ反抗する主人公に共感する若者も多く、それは今でも共通するものである。こういった内容で、それ故に体制側も規制することもあり、病めるアメリカの一部分を象徴していて、ジョン・レノンを暗殺したマーク・チャップマンやレーガン大統領を狙撃したジョン・ヒクリーも愛読していたなど、何かと話題になる小説であった。
ところで主人公ホールデンは頭髪の半分は白髪であるというユーモラスな描写は、そのまま見事な象徴となっている。子供から大人への不安定な季節にさしかかった感性は多分に自己矛盾を孕んでいるからだろう。ヘビースモーカーで年齢をごまかして酒を飲むという大人のポーズと、雑誌を買いに行くのにオペラに行く途中なんだと体裁を作ったり、軽蔑しているはずの映画の主人公気どりを演じてみたり、裕福な弁護士を父に持った都会育ちのエリート意識がついちらついていたりする幼さも併せ持っている。これらと真実なもの純粋無垢なものへの強い希求、虚偽への憎しみが共存している点に、ホールデンの魅力がある。この一風変わった題名はスコットランド民謡『ライ麦畑で会うならば』を一部入れ換えたもので、ライ麦畑で遊びに夢中なあまり断崖から転落しそうな子供たちのつかまえ役なりたいというホールデンの救い主たらんとする夢の表明である。誰しもある少年時における体制への欺瞞。言ってみればホールデンは代弁者のようなものである。
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