2008.09.18 (Thu)
エミール・ゾラの『居酒屋』を読む

エミール・ゾラの『居酒屋』という作品は、それ自体が長編の小説なのであるが、『ルーゴン・マッカール叢書』の中の第7巻にしか過ぎない。つまりルーゴン家、マッカール家の2家族における血統と環境の問題をテーマにして、これら家族に派生する登場人物を労働者、農民、商人、ブルジョワ等の社会における階層に配置して、彼らの生活を性格、行動の類型性を通して描きあげよとうとした叢書なのである。ゾラはこうした文学的立場を自然主義と名付け、その科学的、理性的性格を強調しようとしたのである。
『ルーゴン・マッカール叢書』は、バルザック『人間喜劇』に影響を受けたゾラが、一つの家族を中心として、その強力な遺伝的因子をになった5代に及ぶ人物を各作品に廃止て、様々な環境におかれたそれらの人物がどのような行動をするかを実験し、試みることによって、現代の人間とその社会という奇怪な化け物じみた巨大な謎をあばこうとした物語である。
すなわちルーゴン・マッカール家系の第1代のアデライード・フークが、ルーゴンとマッカールという2人の男性との間に生まれた3人の子供達と、その子孫たちの話が中心となり、第1『ルーゴン家の運命』から第20巻の『医師パスカル』まで、25年かけてゾラが書き綴った作品群なのである。だから『
居酒屋』だけを取り上げても、その作品像は僅かしか垣間見ることが出来ないだろうが、全20巻の中で最も読まれているのが『居酒屋』ということになるのだろう・・・・・。
ジェルヴェーズとランチエは、2人の子供を連れパリにやって来た。だがランチエは女遊びを覚え他の女と蒸発してしまう。夫の仕打ちに耐えてジェルヴェーズは子供のために洗濯女として懸命に働く。その姿に感心したブリキ職人クーポーは、ジェルヴェーズに結婚を申し込む。当初は断っていたジェルヴェーズも熱意に折れ、2人は結婚し、いくらか貯蓄が出来る。
2人は蓄えで洗濯屋を開きたいと考えるが仕事中に屋根から落ちたクーポーが大怪我をしてしまい蓄えは治療費に消えてしまう。これを知った隣人のグジェは、彼女の夢を叶えようと回転費用の援助を申し入れ念願の洗濯屋を開く。店は繁昌していくが、怪我以来、酒癖のついたクーポーは店の稼ぎを酒代につぎ込んでしまう。さらには逃げたはずのランチエまでが店に入り込んでしまいジェルヴェーズも、この男の誘惑に負けよりを戻してしまう。
こうして2人の男との放縦な生活を始めたジェルヴェーズは、徐々に勤勉さを忘れてしまい、後は転がり落ちるように酒に溺れていく。
『ルーゴン・マッカール叢書』の主要人物の職業は大臣、官使、代議士、医師、新聞記者、実業家、牧師、画家、技師、炭鉱夫、鉄道員、女優、売春婦、豚肉屋、兵士、百姓と様々であるが、この『居酒屋』の場合は、どうみても労働者階級を描いていて、当時の書評は「労働者階層の悲惨を描いていて、労働者階層を卑しめ中傷するものだ」とさんざんであった。でも当時、スキャンダルとして評された小説も、現代では文芸の思想の中心テーマであるから面白い。まさに19世紀においての実験小説として書かれたのである。20巻の中の1巻にしか過ぎない小説だが、結局、『居酒屋』だけが、今現代でも読まれるのは、今の小説のテーマと合致するということなのだろうか・・・・・・・・・・。こうして『居酒屋』は書かれ、次の物語『ナナ』へと続くことになる。
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