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2008.07.10 (Thu)

太宰治の『人間失格』を読む

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 太宰治の『人間失格』を初めて読んだのは何十年前のことだろうか。その時は、到底理解しがたい生き方を選んだ人の手記に同調できなかったという強い印象があったが・・・・・・・・。

 大庭葉蔵の手記と、作家によるはしがきとあとがきからなる小説であるが、太宰治自身がモデルであることは一目瞭然である。内容は第一の手記、第二の手記、第三の手記からなり、他人の前で道化を演じてみせることは出来ても真の自分を誰にも曝け出すことが出来ない男、大庭葉蔵が自らを語っている。

 だが大庭葉蔵といってもその小説のモデルとなっているのは太宰治自身であることは、誰もが知っている事実であり、今日では自伝的小説ともいわれている。

大庭葉蔵は恥の多い人生を送ってきたという認識を持っている。また少々、人とは違う繊細な感覚を持っていて、人と全うな会話が出来ないので、人に対して道化を演じていた。それで結果として自分自身、欺瞞的な人たちに対して孤独を選択していた。だが中学時代には、その演じている道化を同級生の一人に見抜かれ恐怖感を味わう。

 旧制高校に進学してからは、人間への恐怖を紛らわすために悪友についてまわり、酒とタバコと淫売婦と左翼運動に走り、やがて人妻との一夜を迎えたあとに心中未遂事件を起こし、自分だけが生き残った。その結果、自殺幇助罪で警察の厄介になるが、父と取引の或る人の取り計らいで釈放される。でも精神的苦痛は続き、高等学校は放校になる。

 その後、大庭葉蔵は一時引受人の家に居候することになるが、家出をして、子持ち女性やスタンド・バーのマダム等と明日の無い生活にはまり込み、だんだんと人生が絶望的な状況になっていく。そして、果てには純粋無垢の女性が小男の商人に傷物にされたことで、葉蔵はアルコールを浴びるほど飲み、その勢いで睡眠薬を用いて発作的に自殺未遂を起こす。

 助かったものの酒に溺れるようになり喀血する。その後、薬に走りモルヒネ中毒となり、薬屋の夫人とも関係を結び、実家に状況を説明して金を無心する手紙を送る羽目となる。やがて葉蔵の元に引受人の男と友人がやって来て、脳病院へ入院させられるのである。ここで葉蔵は他人によって患者としてではなく狂人として扱われたと思い「もはや、自分は、完全に人間でなくなりました」つまり人間失格だと悟る。

 このような内容の小説なのであるが、現実に太宰治は女を死なせ自分だけが生き残った心中未遂事件を起こしている。太宰は小説家である以上、その汚点を書かずに済む事はできなかったのだろうが、書くことの意味があったのかどうか・・・・・・。

 しかし、太宰治は昭和23年6月13日、愛人・山崎富栄と共に玉川上水に入水して世を去る。それ以前から身体の疲労がびとく、喀血もしばしばであったという。でも39年の生涯で4度の自殺未遂があり、自殺により亡くなった芥川龍之介に傾倒していたというから、老いて自然死なんてことは生き恥を曝しているようなものだと考えていたのかもしれないが、女性と心中したというのは如何にも太宰治らしいところである。繊細でいて孤独であり、それでいて癒されたい・・・・・・?

 どうも私には、太宰治という人の感性がさっぱりわからない・・・・・・。
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